「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

智に働けば角が立つ、情に棹させば流される

2020年06月24日 | オーディオ談義

私たちの健康を支える大切な医療の現場に「セカンド オピニオン」という言葉がある。

ご存知の方も多いと思うが念のため、意味を掲げておくと、

「現在かかっている医師(主治医)以外の医師に求める第2の意見のことです。この考え方が広がってきた背景には従来の医師へのお任せ治療ではなく、インフォームド コンセント(説明と同意)を受け、自分も治療の決定に関わる医療に変わってきたという社会背景があります。

医療は日進月歩で新しい治療法が次々に生まれています。そのすべてを一人の医師が把握しているとは限りません。また、医師や医療機関によって患者さんに提供すべきだと考える治療は同じとは限りません。医師や病院によって提供できる医療内容に限界がある場合もあります。また、患者さんそれぞれによって自分の受けたい治療は様々です。

そこで、患者さんにとって最善だと思える治療を判断するために別の医師の意見を訊くこと、それがセカンド オピニオンです。」

この話とオーディオといったいどんな関係があるんだと、いきり立つ人がいるかもしれない。まあ、そう焦らずに(笑)。

まず話の発端を述べてみよう。

以前、あるオーディオ仲間を訪問したところ、修繕した真空管アンプのあまりの変わり様に驚いてしまった。もちろんすべてがいい方向へと大変身である。なにしろ周波数レンジは広くなるし、奥行き感も出てきて、楽器の位置や音色にもリアリティが横溢していた。以前とは大違いである。

どんなスピーカーでもアンプの性能によって音質が大きく左右されることを改めて痛感した次第だが、同時に「アンプ ビルダー」の腕次第でもその差が大きく違うことに驚いてしまった。

ここで仮にこのアンプの持ち主をAさんとしよう。そして作り主、いわば創生主に当たる方をBさんとしよう、そして今回の修繕主をCさんとしておこう。

つまり患者がAさんであり、主治医がBさん、そして第二の意見を求める医師がCさんに当たる。これで役者が出そろった(笑)。

Aさんはこれまで自分のアンプにいっさい不満を覚えなかった。なにしろ作り主にあたるBさんは1000台近くにも上る真空管アンプを作ったというベテランで、回路の設計から配線にかけても正確無比、しかも音質がいい上に故障知らずときている。

いつも大船に乗った気持でいたが、そのうちウッカリミスで整流管のピンを差し違えてしまいアンプから煙が吹いてしまった。 さあ、たいへん! 

間が悪いことに肝心のBさんは寄る年波に勝てず健康を害して入退院を繰り返しており、アンプの修繕どころではないご様子。

そこで、仕方なくこれまたアンプ名人で知られるCさんに助っ人をお願いしたところ快く引き受けていただき、煙を吹いた箇所ばかりではなく、ほかにも気になる個所をいろいろと、たとえば違う種類の整流管が挿せるようにとか、線材の交換から稀少品のハンダのやり直しなどを交えてかなりの規模の修繕と相成った。

その結果、前述のように音質が大変身というわけだが、この出来事について真空管アンプを愛好する人間としてちょっと考えさせられてしまった。

結局、超ベテランの、おそらく日本有数と称されるBさんが作ったものでさえ、結果的にアンプの性能をベストの状態に持って行くことができなかったことになるわけだから。

どんなに優れた「アンプ ビルダー」にしても医師と同様に専門分野や得意分野があるのかもしれないと思った次第。

たとえば個有の古典的な出力管に対する前段管や整流管の適切な選択と回路の採用、シングル型式とプッシュプル型式の違い、インターステージトランスの取り扱い方など、これらの細かいノウハウについての情報を個人が100%取得することは不可能に近いだろう。

したがって、このことから導き出せる結論はひとつ、「どんなに経験豊かなアンプビルダーにも得手不得手があるので、盲信するのはほどほどに」

とはいえ、「依頼者と製作者は固い信頼の糸で結ばれているはずだ。まるで“人情紙風船”みたいにそんな冷たいことを言うな」と叱られそうだが・・。

ここでようやく我が家の話になるが、現在ほぼ満足して使用している「PP5/400シングルアンプ」。



現在の構成は前段管に「SX-112」(トリタンフィラメント)、整流管に「WE422A」(1957年製)、出力管は「PP5/400」(英国マツダ:初期版)となるが、このアンプを振り返ってみると、恥ずかしながら「セカンド オピニオン」ならぬ、何と「Fifth オピニオン」、つまり延べ5人に修繕を依頼したことになる。
           

もうこうなると「執念」としか言いようがないが、その一方では、薄情者と謗られても仕方がない(笑)。

過去の4名の方々に対する忸怩(じくじ)たる思いは当然のことだが、前述のように日本有数と称される「アンプ ビルダー」だって結果的には盲点があったんだから、結局相性が悪かったというべきだろう。

真空管オーディオのポイントはどれだけ相性のいい「アンプ ビルダー」を探し出せるかにかかっていることを否定する人はまずいないと思うが、当方もオーディオは生命線に近いので一生懸命なのである。

それにしてもアンプの音質が気に入らないとき、あるいはもっと「気に入った音」にしたいと思ったときに、製作者に義理立てして再度改造を依頼するか、あるいは、ためらうことなく別の「セカンド オピニオン」を利用するか、これは当事者にとって難しい選択肢になる。

「智に働けば角が立つ 情に掉(さお)させば流される 意地を通せば窮屈だ とかく人の世は住みにくい。」(「草枕」夏目漱石)

智に働くか、情に掉さすか、もしあなたならどうします?(笑) 

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