ときどき「オーディオの楽しみ」っていったい何だろうと、考えることがある。
これまでの経験から「スピーカー弄り」、「真空管弄り」、「接続コード弄り」など、いろいろやってきたが、ユニットの交換や箱の違いなどによる音の劇的変化からするとやっぱり「スピーカー弄り」にトドメをさす。とにかく面白くて楽しい。
歳を取るにつれ気ぜわしくなって早急な結果を求めるせいか、このところ暇さえあればユニットを交換しバッフルづくりなどの木工作業をやっている。
必然的にノコギリや曲線切りに用いるジグソーなどの出番が多くなるが、「また木屑を散らかして!外で作業をしてくださいと、あれだけ言ってるでしょうが」と、柳眉を逆立てて罵声を浴びるのが日常茶飯事になっている。
そういう中、現在、関心の的になっているのがウェストミンスターの上に載せているリチャードアレンの口径20センチのユニットで、音質にはたいへん満足しているが、すべてJBLのユニットに統一してみたいという願望が芽生えた。
中低音域用としてJBLのD130(口径38センチ)を内蔵しており、高音域にはJBLの075ツィーターを味付けに使っているので、JBLの口径20センチ前後のユニットを持ってくれば、オールJBLになり音色の統一が計られようというものだ。
もちろん「375」などのドライバーも候補に考えられるが、我が家の場合7000ヘルツ以下に金属の振動板(ダイヤフラム)を使ってうまくいった験しがない。ヴァイオリンがうまく鳴ってくれないのだ。あのタンノイさんだって例外ではない。
さてJBLの口径20センチクラスとなればすぐに思いつくのが、有名な「LE8T」ユニットだ。とても旧いユニットだがいまだに人気があってオークションにもしょっちゅう出品されている。
今回、大いに惹かれたのが「JBL LE8T 16Ω 初期型 フルレンジ 名機 完動品 ペア」と題した出品物。
落札日の期限が6月1日(木)に迫っており、何しろLE8Tは噂には聞くものの一度も聴いたことがないし、入札する前に情報を集めるのが先決だ。
先日、お伺いした「パラゴン」(レプリカ)を製作しているSさんがJBLのユニットに詳しそうなので連絡を入れてみると、「LE8Tなら箱入りを持ってますよ。よろしかったら今から持って行きますので試聴してみますか。」
「ハイ、是非お願いします。」まったく願ったりかなったりで、ほんとうに有難きはオーディオ仲間である。
丁度、落札日前日の5月31日(水)のことだった。Sさんは我が家には初めてのご来訪なので、目印のつもりで外に出て待っていると、30分後に迷うことなくご到着。
さっそく設置して二人で試聴。
塗装も含めてSさんの自作箱は実に緻密なツクリをしており、まるでプロ級の腕前はパラゴンで証明済みだ。さっそく結線して音出し。駆動するアンプは「WE300Bシングル」。
想像以上の「好みの音」に驚いた。もっとキャンキャンするイメージを思い描いていたが、JBLにしては随分渋いし低音が豊かだ!
日頃イギリス系のユニットを愛用しているが、これを「柔」とすると「剛」とでもいうべきか。音にゆるみが無く、全域に亘って緊張感が漂い、音の粒立ちも鮮やかそのもの。
やっぱりJBLの音は一本芯が通っていると感心し、そして魅了された。ジャズはもちろんだがクラシックも実にうまく鳴る。箱とのマッチングがいいのだろうし、真空管アンプとの相性もいいのだろう。
「グッドマンとJBLなんて水と油ではないか、まったく節操がない男だ」と、読者から謗られそうだが、「分解能が良くて澄み切った音」の前にはブランドもへちまもなし~。
「あの伝説のオーディオ評論家・瀬川冬樹さんだってAXIOM80からJBLに走られたでしょう!」と、弁明しておこう(笑)。
「この音なら中高音域専用に使うなんてもったいない、フルレンジで使うべきだ。」と、すぐに方針変更を決めた。
Sさんのご快諾のもとに当分お借りすることになったが、さしずめ1日(木)のオークションでの落札にますます意欲が湧いてきた。
「巷にはLE8Tのまがい物が氾濫しているので気を付けた方がいいですよ」とのSさんのアドバイスにしたがって、お見えになったついでに、パソコンを開きオークションの出品物の画像を見てもらったところ、「これは間違いないですね、正規品のようです。」と、太鼓判を押してもらった。
こういう状況のもと、強く背中を押されて昨夜(1日)、勇躍して現状価格の3倍の額で入札に参加。
これは楽勝かと思いきや最後の5分前になって、ゾロゾロと伏兵が現れた。自動的に締め切り時間が10分ほど延長になるので「(入札を)止めてくれえ」と悲鳴を上げたが、やっとどうにか逃げ切った。
しかし、土壇場での値上がり額が半端ではなかったので懐が痛んだが「LE8Tの人気いまだ衰えず」を実感した。
最後に、Sさんから当日の深夜になって次のようなメールが届いた。
「本日はお邪魔させて頂きありがとうございました。貴重なAXIOM80の新旧スピーカーを聴かせて頂き大変ありがとうございました。今まで聴いたことのない繊細で透明感ある音だと感心いたしました。
自宅に戻ってJBLを聴いてみると少しうるさく感じました。
また、71Aシングルアンプもお貸し頂きありがとうございます。0.5ワットのようですが、パラゴン(レプリカ)と相性が良いようです。優しい繊細な音質で全く安定作動しています。
丁寧に扱いますので、しばらくお借りいたします。」