BS「日テレ」(141チャンネル)の番組に「地球劇場~100年後の君に聴かせたい歌~」というのがある。
1か月に1回ほどの割合で放映されている「歌番組」(19時~20時54分)だが、司会「谷村新司」の「歌があれば地球は劇場となる」のナレーションのもとに毎回著名な歌手がゲストとして登場し歌謡界の裏話などのホンネトークが展開される。
以前の番組では「吉田拓郎」が登場していたが、その中でご自身が作曲した「襟裳岬」が森進一によってまったく違ったスタイルに編曲されておりビックリ仰天、しかし聴いているうちに次第にこれが本来のイメージかもしれないと思うようになったと語っていた。
「襟裳岬」は自分にとっては思い出の曲で現役時代に数少ないカラオケの十八番として、クチパクで随分練習したものだが(もちろん給料のうちだった!)、実際にこの番組の中で谷村新司との掛け合いで吉田拓郎が歌うのを聴いたところ、軽いロック調の歌い振りでその落差に唖然とした記憶がある。しかし、この「襟裳岬」もなかなかいい!
こればかりはCDでも発売されていないので貴重な録画番組として今でも永久保存中。
そして今回(12月7日)のゲストは「小椋 佳」(おぐら けい)だった。日本の男性歌手では一番好きな歌い手さんなので興味津々で拝見。あの透き通った声はなかなか忘れられない。
作詞作曲家、そして歌手としてあれだけの実力と人気に恵まれながら東大法学部を卒業後、銀行マンになった理由を「音楽はあくまでも趣味としてずっと楽しみたかった。仕事にするのはイヤでした。」と、語っていたが何だか分かるような気がする。
「オーディオは大好きだが、それを生業にするのはまっぴらゴメン。趣味と実益は別。」という自分の思いと一緒だ。まあ、生業にするほどの実力もないわけだが(笑)。なお、このブログだって趣味の一環だからご覧のように広告宣伝の類とはいっさい無縁にしている。
小椋さんはもうかなりのご高齢(70歳)で、先日「生前葬コンサート」をやったそうだが、番組の中ではいまだに味のある歌い方だった。何よりもすべての曲目に亘って歌詞がいい。もうまるでポエム(「詩」)の領域に入っている。
たとえば代表作「シクラメンのかほり」の一節。
「真綿色した シクラメンほど 清(すが)しいものはない 出逢いの時の君のようです ためらいがちにかけた言葉に 驚いたように振り向く君に 季節が頬をそめて過ぎてゆきました」といった具合。たいへんなロマンチストである。
ピアノなどの楽器をいっさいやらないので、作詞後に自分なりに節をつけて歌いながら曲を完成させるとのことだった。
当時ではタブーな話も盛りだくさんだった。たとえば小さい頃から大好きだった「三橋美智也」のために作曲した12もの曲目が途中でお蔵入りになり、その代わり美空ひばりが歌うことになったこと、そのときに天下の“ひばり”に対して、あえて歌い方に注文を付けたことなどが披露されていた。
また家族から見た「小椋 佳」の印象として、全国でも数少ない「薩摩琵琶」製作者の次男さんが「怖い存在です。“時間を無為に過ごさないように”といつも気を張っている生き方をしています。常に“人生とは、生きていく価値とは”という話題ばかりです。どうかもう少しリラックスしてよと言いたいところですが、もう無理でしょう。」と言ってたのが印象的だった。
この番組によって飾りっ気のない「小椋 佳」がますます好きになり、番組終了後に興に乗って心ゆくまで手元のCDを引っ張り出して聴き耽った。
両方ともいずれ劣らぬ名盤だが、夜が更けるにつれて“ひときわ”音質が良くなるのはオーディオマニアならご承知のとおり。
電源事情の改善や周辺環境の静寂化によりSN比が良くなるせいだという話があるが、適度な音量でもって「AXIOM80」と「1920年代製の真空管」のコンビで聴く小椋佳の歌声は、まるでご本人が目前で歌っているようで、深~い感銘を受け、もう何物にも代えられないほどの素晴らしい時間が過ぎていく(笑)。
と、ここまでは実に良かった!
さて、翌朝のことである。この冬一番の厳しい寒さだったが、毎朝、だいたい4時前後に起きているのでぶるぶる震えながら石油ストーブをつけて、小さい音で音楽でも聴くかと真空管アンプのスイッチを入れたところ、ほどなく「AXIOM80」の左チャンネルからブ~ンというそれほど大きくもないが明らかに異音がしてくる。
信号音が出てきてはいるものの、右チャンネルに比べると明らかに小さい。すわ故障勃発か!
さあ、眠気も何もすっかり吹っ飛んで原因追求にとりかかった。
音声信号の流れに沿ってカンノの「トランス式アッテネーター」、真空管アンプの初段管(E80CC:フィリップス)、そしてSPユニット(AXIOM80)の順に点検したが異常なし。そして最後に確認したのが1920年代製の出力管。一番恐れていた故障なので、あえて後回しにしたのだが・・・。
やっぱり異音の犯人はこれだった。この出力管を左右に入れ替えると今度は右チャンネルから異音がするので決まり。「あ~あ、メチャ稀少な真空管だったのに」と思わず天を仰いだ。
原因をつらつら考えてみるに、おそらく次のような状況ではなかったろうか。
前日の夜遅くまで(といっても22時前後だが)、程良く暖まっていた真空管が今年一番の冷え込みにより、翌朝にかけてガラス管やプレート、フィラメントなどの精密部品が極端に凍結状態にあった。そういう不安定な状況にもかかわらず、アンプ周りの室温がある程度上昇する前にいきなり電源スイッチをオンしたため急激に(精密部品に)負荷がかかって耐え切れずお陀仏になった。
「何せ90年ほど前の真空管だからその取扱いには神経質すぎるほどの用心深さが必要だったのに~」と、大いに悔やんだがもう後の祭り。
おそらくベストな対策として考えられるのは次のとおり。
「まず整流管を引っこ抜いてアンプをスイッチオン。30分ほど真空管のヒーターを暖めてからスイッチオフ。そして整流管を再び挿してアンプのスイッチをオン。それからようやく音楽鑑賞に入る。」
そういうわけで日曜日(7日)は一日中、「ブルー」だった。夕方になってようやく「やけ酒」(「橙」果汁入りの芋焼酎)を“あおって”元気回復(笑)。
「真空管に寿命が来ていたと思えば、ま、いっか」と自分に言い聞かせた。
古典管の愛好家の皆さん、厳寒期における取り扱いにはくれぐれもご用心。少なくとも室温20℃ぐらいになってから使用する方がベターですよ。そうすると(古典管)の寿命もきっと延びることでしょう~。