タイトルの「終の棲家」(ついのすみか)とは、ちょっと聞き慣れない言葉かもしれない。
国語辞典によると、ちゃんと「最後に安住する所。これから死ぬまで住むべき所」とある。司馬遼太郎さんの長編小説に「世に棲(す)む日々」というのがあるが「棲む」は「巣」からきた言葉で、「住む」と同義語。「動物が棲む」「人間が住む」という使い分けをする。
とまあ、少しばかり教養の一端を披瀝したところで(笑)、今回はオーディオ機器の中で王様的な位置を占めるスピーカーにも、人間と同様に「終の棲家」が見つかったという話である。
忘れもしない8月8日に縁あって我が家に嫁いできたグッドマンのエンクロージャー。この1か月半ばかり、いろんなSPユニットを入れ替えて楽しませてもらった。
オリジナル専用のユニット「AXIOM301」(口径30センチ)をはじめ、以下、口径20センチのジェンセンのP8P、ナショナルの20PW09、アルテックの403A、リチャードアレンの「ニューゴールデン8」、そしてフォステクスのSLEー20W。
こうやって書き上げてみると6機種にも上る。
それぞれ個性的な音が出てきて大いに楽しませてもらったが、とりわけ印象に残っているのは、「AXIOM301」「JBLのLE85」「JBLの075」による3ウェイシステムだった。反応が早くてシャープでジャズにはもってこいのシステムだったが、名残惜しいものの所詮は“かりそめのちぎり”でそろそろお別れする頃合いとなった。
音楽鑑賞に最適な「芸術の秋」が間近に迫っている!
そして、いよいよ我が家の本命として泣く子も黙る「AXIOM80」サマの登場である(笑)。
「古いオーディオマニアならどんな豪華なシステムをお持ちの方でも”AXIOM80”と聞くと、”オッ”と一目置かれるみたいですよ」と、先日お見えになったKさん(福岡)が述懐しておられたのを思い出す。
23日(月)の午前中に帰省する娘を駅まで送って帰宅するなりさっそく入れ替え作業に取り掛かった。もちろん寂しさを紛らすわけではありませんからね~(笑)。
前もって取付用の補助バッフルを作成していたので随分楽だった。およそ2時間ほどで作業が完了。それはいいものの、とりあえず不要になった「AXIOM301」「LE85」「075」(各ペア)の仕舞い込み場所を見つけるのに一苦労しそうだ。
さあ、どんな音が出るんだろう。オーディオマニアならご承知の通り、期待と不安が混じった緊張の一瞬である。
ウ~ン、素晴らしい!思わず唸ったねえ。
AXIOM80はメチャ繊細なツクリなので鳴らすのが極めて難しいユニットとして知られている。駆動するアンプやエンクロージャー次第でコロッと音が変わる。
愛用しておられたオーディオ評論家の瀬川冬樹さんが、「本領を発揮したときの繊細で、ふっくらした艶やかな響きは絶品!」と評されていたが、その中で一番難しい「ふっくら感」が見事に出てきたのである。
夢中になって次から次にCDを引っ張りだしてきて聴き耽った。久しぶりに大好きなオペラ「魔笛」(コリン・デーヴィス指揮)を2時間半にわたってじっくり鑑賞したが、これほど心に沁み込んできた魔笛は始めて。
こうした音楽三昧の中で、26日(木)の午後、オーディオ仲間のAさん(湯布院)から電話があって「新しいアンプ(WE300Bのパラ・シングル)とSPボックスが完成したのでお暇なときにどうぞ」とお誘いがあった。
ついでに「我が家もとうとうAXIOM80をグッドマンのオリジナル・エンクロージャーに納めましたよ」と、報告したところ「これからすぐに伺いますので是非聴かせてください」。
「どうぞ、どうぞ」
AXIOM80の凄さを熟知しておられるAさんならではの迅速な行動に大いに感じ入った次第(笑)。
すぐに機器のスイッチをいれて40分間ほどウォーミングアップ。
試聴は、「座右の盤」となっているモーツァルトのモテット「踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よ」(KV165)。
「まったくスピーカーボックスの存在を忘れさせる音ですね。女性ボーカルの音像がくっきりと真ん中に立って、伸び伸びと歌っています。こんなに変わるものですか?素晴らしいです!この音なら自分も直し込んでいるAXIOM80にもう一度チャレンジしてもいいです。ようやく(AXIOM80に)終の棲家が見つかりましたね。」と、感激の面持ち。
Aさんとは長いお付き合いだが、「オーディオ装置の存在を忘れさせるほどの音」と絶賛されたのは後にも先にもこれが初めて。
ついでに3機種の真空管アンプテストを行ったところ、Aさんの順番は「WE300B」(モノ×2)、「PX25・2号機」、「VV52B」、自分の順番も「WE300B」アンプがベストでこれで決まり。
いやあ、良かった、良かった。これからもう「毎日がバラ色の人生」が待っているわけだ(笑)。