ネットオークションで掘り出し物を見つけるのが好きなので、日頃からアンテナを張ってチャレンジしているがどうも近年は”振られる”ことが多い。周知のとおりオーディオ人口はごくわずかなのに、熱心さの方が補って余りある好事家(こうずか)がどうやら油断なく網を張っているようで、自分のような疎い人間にはお鉢が回ってこないのがちと淋しい。
つい最近も、またもや”振られて”しまった。お目当ての機器はイルンゴの「アッテネーター」だった。
「フ~ン、そんなものは知らねえ」という方が多いだろうが、これは真空管アンプ愛好家のバイブル的な存在である「管球王国」(ステレオサウンド社)で絶賛を博していたアッテネーターである。
何せテストされていた11機種の中で最高峰の折り紙つきで、たしかに「いい音」がするだろうと思わせるほどのツクリだった。当時(数年前))、喉から手が出るほど欲しかったが、価格が42万円もしたので諦めた記憶がある。スピーカーやアンプならともかく、アッテネーターにそれだけの投資をするのはいくらなんでもねえ。
ところが、8月30日(木)の午前中、ネットオークションでこのアッテネーターが出品されているのを偶然発見!入札価格を見ると何と3万円前後だった。ずっと頭の片隅にあった「イルンゴ」が信じられない価格で手に入りそうだ。出品者はリサイクルの専門業者で、「1円スタート」なのでこんなに安いのだろう。
落札期日を確認すると、何と当日(30日)の22時42分!”たった、あと半日”ではないか。この時点で3万円前後とは、まだこの機器の本当の価値を知らない人が多いに違いないと踏んだ。「よ~し」と奮い立ったのは言うまでもない。
アッテネーターなら現在でも3台使っているし、超優秀なものなら何ぼでも使い道がある。
ただし、入札する覚悟を決める前に、もう一度確認しておこうと倉庫に入って「管球王国」のバックナンバーを漁ってみると、あった、あった。「2006年の春の第40号」。
再度、記事の確認をすると、管球アンプの泰斗「新」さんが、「最初の音が出て、これは凄いと、見事に1本取られました」の激賞に続いて、他の評論家たちも絶賛に次ぐ、絶賛。
「やっぱり、そうだったか、記憶に間違いなし」といよいよ決意を新たにした。近年、物忘れがひどくなったが、オーディオ関連事項は絶対に忘れないのが不思議(笑)。
夕方になって、ほろ酔い加減の中でいよいよ落札価格の検討に入った。先日のパイオニアのA級アンプ「M4」がこのアッテネーターと似たような価格で推移しながら最終的に6万5千円で落札されている。
まあ「9万1千円」も出せば当選圏ではなかろうかと熟考の末に1回限りの真剣勝負の心積もりで入札した。(※具体的な価格を記載するのはちょっと抵抗感を覚えたが、「リアリティ」のために必要なので許してもらおう)
人によっては大したことはないだろうが、自分にとっては「清水の寺から飛び降りる」ような心境である。それでもオークションだから現品を手に取って見れないし、出品者が手放した事情も皆目見当がつかないことを割り引いての低めの価格だが、一方でこれぐらいなら大方、大丈夫だろうと踏んでいた。
さて、自分はどちらかというと冷静な人間に属すると思っているが、ことオーディオとなると人間が変わったようになることを自覚している。欲しいと思った機器が落札時刻寸前になって叩き合いになると、つい熱が入ってしまい見境がつかなくなることが正直言って怖い。
そこで落札価格がもし9万1千円を越えたときは運が無かったことにして潔く諦めようと、落札時刻を無視して21時ごろに就寝した。もちろん半分以上は落札に自信があってのことだが。
さあ、あくる31日(金)の朝。「博多行き」を控えて何かと慌ただしい中、朝一でパソコンのメールを見てみると、すぐに「高値更新」の非情な文字が目に入った。「あ~、駄目だったか」と、思わず天を仰いだ。結局、イルンゴとは縁がなかったんだなあ~。残念無念!
気を取り直して、「お気に入り」に登録していたこのオークションの最終落札価格を追跡してみると何と「14万1千円」の価格(入札件数52件)がついていた。こんなに高値がついたのかと驚くと同時に、これなら諦めもつくわいと涙ながらに納得した(笑)。
「鵜(う)の目鷹の目」+「生き馬の目を抜く」世界という言葉がピッタリ当てはまるのが、今どきのオークション。
「掘り出し物」に当たるのはどうやら至難の業(わざ)のようである。