北海道新聞2024年7月22日 10:43
大手商社からNHKのディレクターを経て、昨年猟師になった。異色の経歴を持つ黒田未来雄さん(52)は今、苫小牧市に住んで道内の猟場を巡り、獲物を追っている。市内外の講演会では自身の体験を語り、昨年本も出版した。なぜ猟師の道を選んだのか、何を伝えたいのか、聞いた。
■動物の生きた証し伝える
――猟師になったきっかけは。
「NHK時代の2006年、カナダの先住民族キースと東京のイベントで出会ったことです。その後、休暇のたびにカナダに行って狩猟に同行するうち、キースの生き方に魅了されていきました。アラスカの自然や動物の作品で知られる写真家の星野道夫さんが好きで、著作にある北米の先住民族の世界観には興味がありました。16年の北海道転勤を機に、狩猟免許を取り、週末に猟を始めました」
――白老などの森に入っているそうですね。
「一人で山を歩く『単独忍び猟』で、これまでシカ86頭とヒグマ3頭を獲りました。解体して食べます。『肉はスーパーで売っているのになぜ自分で殺すのか、かわいそうだ』と言われることがありますが、人間は食べなければ生きていけません。その代わり、無駄なく消費する。動物に対する敬意です。猟師は動物が生き抜いた姿を見届ける。撃った獲物にまだ息があれば近づかず、獲物が自分の死を受け入れるまで待つ。命を奪うものと奪われるものとの礼儀は、キースから教わりました」
――NHKの前、1994年から約5年間、三菱商事に勤め、国産自動車のアフリカ諸国への輸出などを担当していました。
「その時代、アンゴラに出張しました。両足を地雷でなくし、子どもを抱えて地面をはう母親に出会った時、金持ちに車を売って喜ぶ自分が恥ずかしくなりました。アンゴラは資源が豊富なのに、国は殺伐としていました。一度しかない人生、心の豊かさを育む仕事をしたいと、NHKに転職しました」
――99年に転職したNHKでは「ダーウィンが来た!」など自然番組の担当だったそうですね。
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(聞き手・小林彩乃)
<略歴>くろだ・みきお 東京都出身。東京外国語大学卒。三菱商事、NHKを経て、2023年から苫小牧市西部で暮らす。猟師の魅力を伝える著書「獲る 食べる 生きる」(小学館)を出版。ホームページ(https://huntermikio.com/ )でも発信中。