北海道新聞2024年9月29日 4:00
北海道がアイヌ民族を対象に行った生活実態調査の結果を公表した。SNSなどの書き込みによる差別を訴える回答が多く、ネット上の人権侵害の深刻な実態が浮き彫りとなった。
道の公式SNSや鈴木直道知事のX(旧ツイッター)にも差別的な投稿が見られるが削除されず、知事は静観している。
2019年施行のアイヌ施策推進法(アイヌ新法)はアイヌ民族の誇りを尊重し共生社会の実現を目指すとうたう。ネットに増幅する差別は法の目的がなお未達成であることを物語る。
不当な差別の投稿を許さず、毅然(きぜん)と対応するのが国や道の責務だ。知事は実効性のある対策を早急に講じるべきである。
調査は昨年行われ、アイヌ民族であることを理由に何らかの差別を受けた人は29%で6年前の前回調査より約6ポイント増えた。
差別された人に場面を聞くと31%が「ネット上の書き込み」と答え、項目別で最多だった。
道や知事のSNSへの差別的投稿はアイヌ民族を題材にした映画などについて情報発信した際に相次いだ。先住民族であることを否定するなどの内容だ。
こうした投稿への対応について、鈴木知事は記者会見で誹謗(ひぼう)中傷と表現の自由の線引きの難しさに言及し「どういった対応が望ましいか検討が必要」と述べた。だが放置するのは容認したと見られても仕方がない。
今夏の全国高校野球選手権大会で韓国系民族学校がルーツの京都国際高が優勝した際、民族差別的な投稿が相次いだ。京都府の西脇隆俊知事は「あってはならない」としてSNS事業者などに投稿の削除を要請した。
道も差別的投稿に対し第三者の意見を聞いた上で削除要請するなどの制度を整えてほしい。
道などへの投稿には、そもそもアイヌ民族への差別自体がないと主張するものもある。
だが差別は残っている。アイヌ民族は明治政府の同化政策で言葉や文化、生業を奪われ苦難を強いられてきた。今も進学率や生活保護世帯率は住民平均より厳しく権利回復は道半ばだ。
推進法施行後、民族共生象徴空間「ウポポイ」の開設など文化振興は一定程度進んだ。
一方、道の調査では学校や職場、就職時の差別を訴える声も依然としてあった。アイヌの人々の置かれた現実を知る努力が求められる。歴史を含めて国や道が啓発に一層注力しなければ、共生社会は実現しない。
推進法は差別禁止も規定するが罰則がなく、実効性を求める要望も相次ぐ。国は法の課題を検証し見直しを進めるべきだ。