西村一朗の地域居住談義

住居・住環境の工夫や課題そして興味あることの談義

ジェイン・プラント著『乳がんと牛乳』を読む

2008-11-27 | 食物栄養・健康・医療・農業・教育
知り合いの『感性の料理人』さんに示唆されて『乳がんと牛乳』をざっと斜めに読んだ。私自身「乳がん」になる恐れはないのだが、妻や娘や孫のため読んだ。すると、それは「前立腺癌」にも共通のことと分かり、大いに参考になった。

この本はイギリスの女性の地球化学研究者ジェイン・プラント(Prof.Jane Plant)さんが、乳がんにかかったのだが、持ち前の研究心で必死に自分の乳がんの原因を徹底的に探り、牛乳他の乳製品を好んで食べていたことであることを突き止める。

この本は、乳がん(前立腺癌)の原因、治療、予防の方法論を知る本であると共に科学的方法論に対する示唆も示している本である。

本文は長大なので訳された佐藤章夫さん(山梨医科大学名誉教授)の「訳者後記」からエッセンスを1ページ余を引用する。

「プラント教授は、女性が乳がんになるのは人間が本来口にすべきでない牛乳・乳製品を飲みかつ食べるからであると断じている。そして、不幸にも乳がんになった人は、自分が乳がんになりやすい遺伝的資質(体質)であることを自覚して、牛乳・乳製品を完全に断つことを勧めている。
 ヘビースモーカーのすべてが肺がんになるわけではないのと同じ理由で牛乳・乳製品を好んで口にするものすべて乳がんになるわけではない。しかし、集団的レベルでみれば、牛乳・乳製品を多飲・多食する国々に乳がんが多いのは明らかである。プラント教授が乳・乳製品を遠ざけることによって再発をくりかえす乳がんを克服したからといって、その方法がすべての乳がん患者に効果があるかどうかわからない。だが、その提唱には十分な科学的根拠がある。
 乳がんは不思議ながんである。成人の固形がんはすべて高齢になるほど多くなる。ところが、乳がんは20代~40代という、子どもを産める年齢の女性を襲う。更年期前の女性の乳がんの発端はおそらく思春期にあるだろう。思春期には初潮に先立って胸が膨らむ。乳腺細胞が急激に分裂・増殖するからだ。この分裂の際にDNAの複製エラーが起こる。これが乳がんの発端である。思春期に発生し、免疫の監視を逃れて体内に潜んでいたがん細胞が、分裂刺激を受けて増殖し10年~40年後に「しこり」として触れるほどの大きさに成長するのである(乳がんについて述べたが、このことは、卵巣がんと子宮体部がんにもあてはまる)。
 プラント教授の乳製品と乳がんに関する理論的展開はまことに明解である。哺乳類の子どもは、生まれてから離乳するまでの短期間、母親のミルクだけを飲んで育つ。ウシの子は母ウシのミルク(母乳)を飲み、人間の子は母親のミルク(母乳)を飲む。牛乳も母乳も、タンパク質・脂肪・糖質・ビタミン・ミネラルという栄養素を含む単なる白い液体ではなく、生まれたばかりの子どもの成長を促す成長因子やホルモンを含む強力な生化学的液体(白い血液)である。ウシの子は1日に1キログラムも体重が増えるほどに成長が速い。したがって、子ウシの急速な成長を支えるために、牛乳には大量の成長因子とホルモンが含まれている。このような強力な液体を成人が飲んだらどうなるか。体内に潜んでいるがん細胞の分裂・増殖を刺激してがんの成長を促し、乳がんの治療を受けた人にがんの再発をもたらすことになる。」

まことに簡潔にして明確な理論的説明である。どうでしょうか。

「プラント教授は、自分の乳がんを精察し、類い稀な機能的推理力を駆使して「乳がん(+前立腺がん)は、乳・乳製品によって起こる」という結論に達した。プラント教授は、「中国人に乳がんが少ない」「中国人は乳製品を食べない」という素朴な事実から、直感的に「乳がんは乳製品によって起こる」という結論に達したのである。まさに、リンゴが落ちるのを見て万有引力の存在を確信したニュートンに匹敵する。真理の発見には、このような思考のジャンプが必要なのだ」(訳者注より)
 
この一例でそんなことが言えるのか、という批判が巻き起こった。実際、今までの疫学的研究で、煙草と肺がんの関係ほどにはっきりしていない。その理由は、乳製品の個人的消費量を正確に把握できないことにあるようだ。「乳製品と乳がんの関係を疫学的に検証する最良の方法は、厳格なビーガン(乳製品を含め動物性の食品を一切口にしないベジタリアン)とラクト・ベジタリアン(肉は食べないが、肉のかわりに乳製品を食べる。乳製品以外はビーガンの食事に近い)のあいだで乳がんの発生率を比較することである。残念ながら、このような調査はまだ行われていない。)」(訳者注より)

どなたか、疫学的な研究をして下さい。でも「一例調査」でも私には十分説得力があった本である。

これを社会的運動にリンクすると大変なことになることは目に見えている。例えば、給食の牛乳をやめ豆乳に置き換える運動とか・・・。

英文によるプラント教授関連記事:http://www.canceractive.com/page.php?n=679