(1)300あった衆院議席が119まで減る壊滅的打撃を受けた3年前の総選挙を機に、自民党の「右ウイング化」が始まった。
国会に戻ることのできた有力議員は、固い保守層を支持基盤を持つ長老とタカ派ばかりだった。ハト派は軒並みに落選し、戻ってきたのも政治力がなく、ケンカに弱い議員ばかりだった。
下野した自民党は、ハト派の谷垣禎一を総裁に選んだが、しょせんタカの上にハトが乗っているようなものだった。谷垣総裁(当時)は、憲法改正草案作りにも指導力を発揮できず、強い意欲を見せていた総裁選も、結局、立候補辞退に追い込まれた。
(2)憲法改正は、1955年の自民党結成以来、党是となっている。それを訴え続けることで、支持基盤の保守層を固めた自民党は、時に政策の優先順位を巧みに入れ替えながら(<例>憲法改正と真逆の政策を掲げる)、支持を左ウイングにも広げ、政権を維持した。
しかし、1990年代に入ると、衆院の単独過半数確保が困難になり、「国民政党」とは呼べない存在に変貌していった。
(3)議員の世襲化が進んだ。
他方、1996年の衆院選から小選挙区が実施され、それまでなら自民党から立候補したはずの人材が続々と民主党から選挙に出るようになった。
その象徴は、自衛隊員を父親に持つ野田佳彦・首相だ。野田は、初めて臨んだ千葉県議選(当時・無所属)で、谷垣前総裁側近の逢沢一郎・自民党前職/同じ松下政経塾1期生の事務所から、選挙のやり方を手取り足取り教わった。
自民党の左派から中道ぐらいの思想信条を持つ有力議員は、民主党にゴロゴロいる。民主党から出たのは単に選挙区事情に過ぎない。【関係者】
民主党の勢力伸長の末、2009年の自民党大敗で生き残った議員が右派ばかりだったのは、当然の帰結だとも言える。
(4)議席大幅増で、3年ぶりの政権復帰が指呼の先に近づいた、とされる自民党。
だが、「悪材料」も出始めた。熱心に支援する一部宗教団体や地元医師会が、微妙に「消極支持」に転じつつある空気が醸成されつつあるのだ。
原因は、公約に憲法改正や集団的自衛権行使の見直しなどを打ち出した安部晋三・総裁の発言だ。
自民党の公約は、(1)の「憲法改正草案」や、谷垣時代の公約原案を基本にしたものだ。だから、自民党候補者にとって困るのは、公約の中身ではなく、安部の説明、パフォーマンスぶりなのだ。
安部は、国防軍への改称理由を、軍でないと戦時にジュネーブ条約による捕虜の扱いが受けられない、などとテレビで口を滑らせた。今すぐにでも「国防軍」に戦争させるかのような口ぶりだった。
安部は「テンションが高すぎる、危なっかしい、と支持者が言っている。マイルドな自民支持層を逃しかねない」。【自民党中堅前職】
(5)タカ派の安部自民は、政権に復帰したとたん、ジレンマに直面する可能性が高い。
こんど勝ち上がってくる自民候補は、前回落選した人たちが多い。彼らは、安部の主張に乗って、というより、民主党への失望や個人的同情票など様々な要因で当選してくる。かつての小泉チルドレンや小沢ガールズとは違う。【薬師寺克行・東洋大学教授】
自民党は、勝てば勝つほど、安部カラーが薄まることになる。そもそも票の中身が違うからだ。
となれば、華々しく掲げた「憲法改正路線」も思うように進まなくなる可能性が出てくる。民主党は、2009年版マニフェスト違反、ウソつき呼ばわりをされた。こんどは、自民党が、ウソつき、二枚舌の非難を浴びせられる。
安部のコアな支持者は、熱狂的だ。彼の政治信念を、憲法改正を訴えて自衛隊に押し入り、自殺した三島由紀夫の主張と同列視する本も出版されている。
安部首相(見込み)が、コアな熱狂的支持者から、ウソつきを理由に自決用の日本刀を渡される可能性は高い。
(6)憲法改正発議には衆参両院とも3分の2以上の賛成が必要だ。だが、参院の改選は毎回定数の半分であり、改憲発議を実現するには衆院の3分の2はもちろん、参院で2回選挙をやって、それで3分の2を超えなければ難しい。機が熟するまでの長い間、ずっと改憲の強い政治的エネルギーを持続しなければならない。
制度的にたやすいものではない上に、政権党には難しい政治的課題がわんさと待ち受けている。景気回復と財政再建、消費増税、社会保障制度の見直し、国会議員の定数削減・・・・。
悪いことに、自民党は三年寝太郎で、3年前に下野する原因となった党の宿痾(<例>族議員、利益誘導政治、官僚支配、党と内閣の二元的政策決定過程)を何一つ改革していない。自民党は、何時また有権者から「ペケ」マークを突きつけられるかわからない体質は変わっていない。
なお悪いことに、来年7月には参院選が控えている。今年の衆院選で落ちた候補者には、わずか半年後に捲土重来の機会があるというわけだ。
以上、小北清人(編集部)「「タカ派路線」のジレンマ」(「AERA」2012年12月10日号)に拠る。
【参考】
「【選挙】自民党の公約を整理すると浮き上がる矛盾」
「【選挙】安倍自民党総裁が財界に支持される理由 ~官僚的体質~」
「【選挙】安倍晋三の軽佻浮薄と無定見 ~経済政策~」
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国会に戻ることのできた有力議員は、固い保守層を支持基盤を持つ長老とタカ派ばかりだった。ハト派は軒並みに落選し、戻ってきたのも政治力がなく、ケンカに弱い議員ばかりだった。
下野した自民党は、ハト派の谷垣禎一を総裁に選んだが、しょせんタカの上にハトが乗っているようなものだった。谷垣総裁(当時)は、憲法改正草案作りにも指導力を発揮できず、強い意欲を見せていた総裁選も、結局、立候補辞退に追い込まれた。
(2)憲法改正は、1955年の自民党結成以来、党是となっている。それを訴え続けることで、支持基盤の保守層を固めた自民党は、時に政策の優先順位を巧みに入れ替えながら(<例>憲法改正と真逆の政策を掲げる)、支持を左ウイングにも広げ、政権を維持した。
しかし、1990年代に入ると、衆院の単独過半数確保が困難になり、「国民政党」とは呼べない存在に変貌していった。
(3)議員の世襲化が進んだ。
他方、1996年の衆院選から小選挙区が実施され、それまでなら自民党から立候補したはずの人材が続々と民主党から選挙に出るようになった。
その象徴は、自衛隊員を父親に持つ野田佳彦・首相だ。野田は、初めて臨んだ千葉県議選(当時・無所属)で、谷垣前総裁側近の逢沢一郎・自民党前職/同じ松下政経塾1期生の事務所から、選挙のやり方を手取り足取り教わった。
自民党の左派から中道ぐらいの思想信条を持つ有力議員は、民主党にゴロゴロいる。民主党から出たのは単に選挙区事情に過ぎない。【関係者】
民主党の勢力伸長の末、2009年の自民党大敗で生き残った議員が右派ばかりだったのは、当然の帰結だとも言える。
(4)議席大幅増で、3年ぶりの政権復帰が指呼の先に近づいた、とされる自民党。
だが、「悪材料」も出始めた。熱心に支援する一部宗教団体や地元医師会が、微妙に「消極支持」に転じつつある空気が醸成されつつあるのだ。
原因は、公約に憲法改正や集団的自衛権行使の見直しなどを打ち出した安部晋三・総裁の発言だ。
自民党の公約は、(1)の「憲法改正草案」や、谷垣時代の公約原案を基本にしたものだ。だから、自民党候補者にとって困るのは、公約の中身ではなく、安部の説明、パフォーマンスぶりなのだ。
安部は、国防軍への改称理由を、軍でないと戦時にジュネーブ条約による捕虜の扱いが受けられない、などとテレビで口を滑らせた。今すぐにでも「国防軍」に戦争させるかのような口ぶりだった。
安部は「テンションが高すぎる、危なっかしい、と支持者が言っている。マイルドな自民支持層を逃しかねない」。【自民党中堅前職】
(5)タカ派の安部自民は、政権に復帰したとたん、ジレンマに直面する可能性が高い。
こんど勝ち上がってくる自民候補は、前回落選した人たちが多い。彼らは、安部の主張に乗って、というより、民主党への失望や個人的同情票など様々な要因で当選してくる。かつての小泉チルドレンや小沢ガールズとは違う。【薬師寺克行・東洋大学教授】
自民党は、勝てば勝つほど、安部カラーが薄まることになる。そもそも票の中身が違うからだ。
となれば、華々しく掲げた「憲法改正路線」も思うように進まなくなる可能性が出てくる。民主党は、2009年版マニフェスト違反、ウソつき呼ばわりをされた。こんどは、自民党が、ウソつき、二枚舌の非難を浴びせられる。
安部のコアな支持者は、熱狂的だ。彼の政治信念を、憲法改正を訴えて自衛隊に押し入り、自殺した三島由紀夫の主張と同列視する本も出版されている。
安部首相(見込み)が、コアな熱狂的支持者から、ウソつきを理由に自決用の日本刀を渡される可能性は高い。
(6)憲法改正発議には衆参両院とも3分の2以上の賛成が必要だ。だが、参院の改選は毎回定数の半分であり、改憲発議を実現するには衆院の3分の2はもちろん、参院で2回選挙をやって、それで3分の2を超えなければ難しい。機が熟するまでの長い間、ずっと改憲の強い政治的エネルギーを持続しなければならない。
制度的にたやすいものではない上に、政権党には難しい政治的課題がわんさと待ち受けている。景気回復と財政再建、消費増税、社会保障制度の見直し、国会議員の定数削減・・・・。
悪いことに、自民党は三年寝太郎で、3年前に下野する原因となった党の宿痾(<例>族議員、利益誘導政治、官僚支配、党と内閣の二元的政策決定過程)を何一つ改革していない。自民党は、何時また有権者から「ペケ」マークを突きつけられるかわからない体質は変わっていない。
なお悪いことに、来年7月には参院選が控えている。今年の衆院選で落ちた候補者には、わずか半年後に捲土重来の機会があるというわけだ。
以上、小北清人(編集部)「「タカ派路線」のジレンマ」(「AERA」2012年12月10日号)に拠る。
【参考】
「【選挙】自民党の公約を整理すると浮き上がる矛盾」
「【選挙】安倍自民党総裁が財界に支持される理由 ~官僚的体質~」
「【選挙】安倍晋三の軽佻浮薄と無定見 ~経済政策~」
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