語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【選挙】石原都政で何が失われたか ~福祉・医療・教育・新銀行破綻・汚染市場~

2012年12月12日 | 社会
 石原慎太郎、都知事選(1967年4月15日)、落選【当選者は美濃部亮吉】。都知事選(1999年4月11日)、当選【1期目】。都知事選(2003年4月13日)、当選【2期目】。都知事選(2007年4月8日)、当選【3期目】。2012年10月25日、都議会議長に辞表を提出。

(1)福祉
 (a)1期目、当選するや否や、「何が贅沢と言えばまず福祉」と気炎をあげ、都独自のさまざまな福祉政策を切り捨てた。
   ①特別養護老人ホームの運営費補助、廃止。
   ②区・市町村に対する特別養護老人ホーム用地費助成、廃止。都内の特養入所待機者43,060人(2010年)にも拘わらず。
 (b)東京都23区の餓死者数は、26人(1999年)から60人(2011年)と2倍以上増えた。
 (c)群馬県渋川市の高齢者施設「たまゆら」で火災が起き、焼死者10人(うち7人が都民、うち6人が生活保護受給者)の事件に関して理事長および職員が逮捕されたことを受け、石原は記者会見で「カネがない」と突き放した。他方、オリンピック招致のため、150億円を浪費。4,000億円の基金も積んでいる。ちなみに、都の予算規模は12兆円(2012年度)だ。

(2)医療
 (a)2001年、「都立病院改革マスタープラン」を策定。16あった都立病院のうち11病院を8に統廃合し、残り5は4の病院に統合したうえで、民営・公社化した。
 (b)医師不足の直接の責任は医学部定員を抑制してきた国にあるが、都にも責任がある。2008年までの10年近く、都立病院の医師給与は全国の自治体病院の中で最低水準だった。
 (c)2008年、36歳の妊婦が7病院に受け入れ不能と言われ、最終的に、最初に問い合わせた都立墨東病院が当直以外の医師を呼び出し、やっと受け入れた。帝王切開で胎児は産まれたものの、女性は死亡した。産科医不足から、同病院が母体搬送を制限していたことが直接の原因だった。都の「選択と集中」政策で、築地産院と母子保健院が墨東病院に統廃合されたことが、事故の背景にある。東京都東部地域の産科機能は集約され、同病院はリスクが高い新生児と妊婦に24時間態勢で対応する総合周産期医療センターに都から指定されていた。だが、産科が地域に分散していたら母親は救えたかもしれない。都の、119番通報を受けてから救急車が患者を医療機関に搬送するまでの所要時間は、平均54.3分だ(2010年、全国最下位)。2006年と比較して10分以上遅くなっている。
 (d)看護師が不足しているにも拘わらず、都立の看護学校と定員を11校1,340人(2000年)から7校560人(2009年)に削減した。団塊世代が75歳以上になる2025年問題では看護師不足から医療が崩壊すると言われているのに、逆行している。
 (e)都立の3小児病院も統廃合され、2010年、府中に小児総合医療センターが設立された。
 (f)1999年9月、重症心身障害児(者)の施設、府中療育センターを視察した後の記者会見で、石原は、「ああいう人っていうのは人格があるのかね」という感想を述べた。

(3)教育
 (a)1期目、2000年に、都教委は人事考課制度を導入した。教職員の「通信簿」だ。この成績が人事や給与に反映される。内容は①自己申告と②業績評価の2本立てだ。②は副校長による4段階絶対評価と教育長による4段階相対評価で行われる。当然、教育長、校長、副校長の管理が強まり、「従順」でない教員の評価は低くなる。
 (b)2001年、主幹制度が導入された。2013年、指導教諭制度も始まった。
 (c)2006年、職員会議での挙手・採決が禁止された。職員会議の形骸化だ。(b)の中間管理職の増加と相まって、教職員が対等に協働する自治的学校運営は上意下達の学校運営に変わった。最近都教委が呼ぶところの、学校「経営」となった。
 (d)2009年、「東京都高度情報化システム(TAIMS)」が導入された。教員各自に1台、都教委直結のパソコンが貸与され、入力した教材プリント、試験問題などが都教委に丸見えとなるシステムだ。
 (e)管理は、思想統制と表裏一体化している。その象徴が、2003年の「10・23」通達だ。卒業式や入学式などで国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する、という内容だ。違反者に対する処分は苛烈だ。①不起立1回目で戒告。昇給延伸3ヵ月、勤勉手当1割カットなどの経済的制裁を伴う(退職金や年金にも反映する)。②不起立2回目で減給10分の1が1ヵ月。③3回目で減給10分の1が6ヵ月。④4回目で停職1ヵ月。⑤5回目で停職3ヵ月。⑥6回目で停職6ヵ月。・・・・これまで累計441人の教員が処分された。
 (f)通達違反の教員は、丸1日かかる「服務事故再発防止研修」を受けねばならない。反省文を書かされ、公務員法の講義を受講する。しかも自校の校長同伴だ。校長は隣に座って監視する。トイレに立つと、都教委の職員が監視のためについて来る。しかも、違反教員の同僚教員全員が^「校内研修」を受けさせられる。連帯責任だ。個人を集団で監視し、縛りつける巧妙な方法で、戦前の隣組と同じだ。
 (g)管理や統制になじめず、病気になって休職する教員が増えている。都の公立高校の病気休職者は、75人(2003年度)から114人(2010年度)の1.5倍に増えた。

(4)株式会社新銀行東京
 (a)2期目の公約にあげた新銀行は、単なる思いつきから生まれた(2007年、都知事選における浅野史郎候補との討論)。1期目に、大手銀行への外形標準課税導入失敗でメンツをつぶされたことへの報復もあったらしい。
 (b)当初、石原は、都が出資した1,000億円は将来数兆円になる、と豪語していた。しかし、都の出資金を毀損したのみならず、追加出資はしないとの確約を翻し、400億円もの追加出資を決めた。
 (c)2008年6月、都と新銀行の経営会議記録(「ブリーフィングメモ」)が都議会で暴露され、都が新銀行にマスタープランの目標額達成を迫った圧力が過剰融資の原因だ、と追及された。石原のために、都官僚が新銀行に圧力をかけたのだ。
 (d)新銀行破綻の原因をめぐる外部調査報告書によれば、2006年7月には「デフォルト(こげつき)による損失と利息収入との均衡は完全に崩壊」していた。新銀行の内部にはストレスが満ち、労働問題が惹起した。横山剛は、モビング(職場における集団いじめ)被害の損害賠償を求めて新銀行を提訴した(2012年11月、勝訴)。

(5)築地市場移転
 (a)1期目、1999年9月に築地市場を視察、「古い、狭い、危ないなあ」と述べ、豊洲買収交渉が本格化、翌年10月には知事の腹心、浜鍋武生・副知事が乗り出した。
 (b)2001年1月、東京ガスは、自社の都市ガス製造工場があったことから、豊洲が高濃度のベンゼンなどの有害物質で汚染されている、という調査結果を公表した。だが、石原は同年2月に都議会で、「移転候補地は豊洲」と表明した。そして、同年7月、東京ガスと基本合意を締結。石原は、汚染を承知の上で豊洲買収を決定した。
 (c)2005年、都は、東京ガスが汚染の一部は撤去するものの、汚染は拡散を防止すればよい、とする確認書を取り交わした。この確認書には、東京ガスの汚染対策完了後に新たな汚染が見つかっても同社に処理費用を負担させる「瑕疵担保条項」がなかった(2010年1月5日、朝日新聞がスクープ)。
 (d)2006年、都議会公営企業会計決算特別委員会で、東京ガスの処理完了後に同社の操業に基づく汚染物質が発見された場合に同社が処理する「瑕疵責任」はあるか、という質問に対し、後藤正・新市場建設調整担当部長は、「東京ガスが処理をするという了解を得てございます」と虚偽答弁を行った。
 (e)都の汚染対策費は508億円(このほかに東京ガスが78億円を負担)は、土地の購入費1,980億円の25.6%になる。一般の土地売買では、汚染対策費が土地価格の2~4割を越えると不成立になる場合が多い。本来「塩漬け」になりそうな土地を、都は、東京ガスから通常の価格で買収した。
 (f)築地市場の仲卸ら13人は、汚染されていない前提で地価を算定、購入したのは違法だ、として2010年5月、石原らに、都に公金返還を求める訴えを東京地裁に起こした。
 (g)東京中央卸売市場労働組合が豊洲移転反対のデモを行い、集会を開いたことから、2007年の都知事選は豊洲移転問題が争点になった。石原はやむをえず汚染の調査と対策を公約した。三選後、専門家会議が設置され、会議の方針により調査した結果、土壌からベンゼンが環境基準の43,000倍、シアンが930倍など深刻な汚染が判明した。反対運動がなければ、汚染実態は解明されなかった。
 (h)都は、土壌汚染対策した上で、計画から2年遅れの2014年に開場を予定している。
 (i)2011年の大震災では豊洲も液状化し、108ヵ所で地価の砂や水が噴出した。地震で液状化すれば地中の汚染物質が噴出し、市場機能は停止して大混乱が起こるだろう。
 (j)2012年9月、都の調査で、不透水層内部からも大量の汚染が見つかった。
 (k)日本環境学会は、土壌汚染対策について調査や公開討論会を何回も申し入れたが、都は拒否し続けている。<豊洲に行かなければリスクはゼロ。豊洲移転でリスクを負うのは市場で働く人々や消費者。利益を得るのはゼネコンや流通業者と、それらに支えられた石原知事だ>【坂巻幸雄・日本環境学会】

 以上、永尾俊彦(ルポライター)「石原都政で何が失われたか」(「世界」2013年1月号)に拠る。

 【参考】
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