語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】未確認飛行物体

2012年12月23日 | 詩歌
 薬罐だつて、
 空を飛ばないとはかぎらない。

 水のいつぱい入つた薬罐が、
 夜ごと、こつそり台所をぬけ出し、
 町の上を、
 畑の上を、また、つぎの町の上を、
 心もち身をかしげて、
 一生けんめいに飛んで行く。

 天の河の下、渡りの雁の列の下、
 人工衛星の弧の下を、
 息せき切つて、飛んで、飛んで、
 (でももちろん、そんなに早かないんだ)
 そのあげく、
 砂漠のまん中に一輪咲いた淋しい花、
 大好きなその白い花に、
 水をみんなやつて戻つて来る。

□入澤康夫「未確認飛行物体」

 【参考】
【読書余滴】「わたしのいつた国」 ~擬物語詩の神秘~
【読書余滴】わが出雲・わが鎮魂
【読書余滴】現代詩における心中
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