語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【選挙】地域分散型エネルギーで創造するニッポンの未来

2012年12月16日 | 社会
(1)脱原発批判を批判する
 脱原発をすると電気料金は上がり、化石燃料の輸入も拡大するために、雇用状況や景気が悪くなって経済がダメになる・・・・という批判は、旧い産業構造に引きずられた「大声」であって、現実は真逆だ。
 電気料金が上がるという批判は、原発ゼロの場合だけを取り上げた意図的な誇張にすぎない。原発の比率にかかわらず、計算モデルでは、電気料金は1.4倍から2倍程度に上がる。しかも、これはあくまで「計算モデル上のお話」にすぎない。現実がそのようになるという「予測」ではない。
 自然エネルギーの費用は、現在、予想を超えて大幅に下がりつつある。<例>自然エネルギー費用の減免を受けているドイツの産業界は、むしろ自然エネルギー普及による電力費用低下という恩恵を受けている。
 日本の産業界の生産費用に占める電気料金の割合は1.3%にすぎない。これが2割上がったとしても、日本経済が壊滅することはない。
 大きな影響を受ける電力多消費産業(電力費用が製造費の10%)の売上げや雇用に占める割合は0.1%程度にすぎない。そうした産業だけに配慮すればすむ。
 むしろ、脱原発によって自然エネルギー転換という大規模な需要が創造され、日本経済が活性化する可能性が高い。脱原発が早ければ早いほど、再生可能エネルギーの導入が大きければ大きいほど、雇用や経済投資効果が大きく、経済が活性化する。
 原発は、電力会社の地域独占・市場独占を中心とする産官学の中央独占体制によって支えられてきた。これが、オープンで公正な電力システム改革によって、開放的で創造的な経済を生み出すビッグバンとなる可能性が期待できる。

(2)今後必要な3つの「転換」
 (a)「産業エネルギー」から「環境エネルギー」への基本思想の転換
   日本のエネルギー政策は、歴史的に経済成長を目的とする産業政策に位置づけられてきた。そのため「安く・大量のエネルギーを安定供給する」ことに重点が置かれた。一方、環境対策は「エンド・オブ・パイプ」(<例>煙突や排水溝に汚染除去装置を付ける)に留まってきた。
   エネルギーは文明を営む上でもっとも重要な要素なのだが、今日のエネルギー供給の主力(=化石燃料・原子力)は持続可能なエネルギー資源ではない(資源量が有限、地球温暖化や核廃棄物など深刻な環境影響をもたらす)。
   北欧など欧州の多くは、「持続可能な開発」をエネルギーにも具体的に適用している。単に産業経済のためではなく、環境面を軸に、社会的にも経済的にも持続可能で、かつ、将来世代や南北間の公平性を政策目標に盛り込みつつ、エネルギーシフトを進めてきた。

 (b)「供給側」から「ユーザー側」への転換
   日本のエネルギー政策やその産業構造は、徹底的に「供給側の視点」で作られてきた。電力会社が地域独占、ユーザーはエネルギーも電力会社も選択できない。政策も供給側への施策(<例>技術開発などの技術的対策、発電所設置補助)がほとんどだった。
   ユーザー側の視点からエネルギー政策の体系を見直す必要がある。「需要プル・市場プル」と呼ばれる政策体系だ。ユーザー側・市場側の価値・リスクに焦点を当て、電力市場改革や送電線のルール整備、融資債務保証といった制度面の改善や社会モデルの構築などの施策を重視するものだ。
   <代表例>「固定価格買取制度」だ。自然エネルギーを一定期間にわたって採算の取れる価格で購入する。日本では2012年7月に始まったばかりだが、この制度によって、欧州を筆頭とする多くの国・地域では、自然エネルギーが著しい普及を迎えている(農業・工業・ITに次ぐ「第4の革命」)。代替エネルギーとしての役割に留まらず、「新しい経済」として期待されるようになったからだ。

 (c)「大規模・中央集中・ヒエラルキー」から「小規模・地域分散・ネットワーク」への転換
   開かれたデモクラシーが必要だ。「第4の革命」では、エネルギー種が変わるだけでなく、大規模集中から小規模分散へと、エネルギーの体制やパラダイムが大きく変わろうとしているのだ。

(4)エネルギー小規模分散で地域経済が活性化
 地域社会にとって、これまでのエネルギー開発との関係は「開発される側」という受け身の関係だった(水力発電や炭鉱から、火力発電所や原発の立地まで)。地域は、自然環境、労働力、土地、さらには安全まで提供し、見返りに固定資産税、国の交付金、従属的な雇用を得てきた。かかる「植民地型開発」の行き着いた先の一つが、今回の原発事故にほかならない。
 自然エネルギーは、本来的に地域分散型だ。今後、エネルギーと地域社会との関係を根本的に変える可能性を秘める【注】。
 これまでエネルギーのほぼすべてを外部・他者に委ねてきた地域社会は、その見返りに(地域に十分な投資先がないことも相まって)、数兆円規模の地域マネーを地域外に流出させていた。このエネルギーとマネーを地域内に閉じるだけで、大きな地域経済効果が生じる。
 自然エネルギーは、小規模分散型だから各地に分散し、無数に広がっていく。地域社会との接点や衝突が増え、トラブルや紛争が発生する可能性がある。地域社会と折り合える「新しいルール」を編みだして、合意形成していくしかない。そのためにも、エネルギー自治(自然エネルギー事業に対する地域参加型の意思決定とオーナーシップ)が不可欠だ。
 21世紀は知識社会だ。自然エネルギー普及政策も地域づくりも、すへて洗練された知識創造から生まれる。そうした知識創造は、自由で開かれた創発的な雰囲気の地域社会がカギをにぎる。

 【注】「【選挙】【原発】安部自民と石原維新がもたらす経済損失 ~経済システムの変化~」 

 以上、環境エネルギー政策研究所「地域分散型エネルギーで創造するニッポンの未来 ~脱原発こそが経済成長への道~」(「週刊金曜日」2012年12月7日号)に拠る。

 【参考】
【選挙】自民党の公約を整理すると浮き上がる矛盾
【選挙】安倍自民党総裁が財界に支持される理由 ~官僚的体質~
【選挙】安倍晋三の軽佻浮薄と無定見 ~経済政策~
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【選挙】小泉「改革」の悪夢は甦るのか ~「失われた20年」の元凶~
【選挙】【原発】安部自民と石原維新がもたらす経済損失 ~変化しつつある経済システム~
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