語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【本】今年のイチ押し ~娯楽小説3点~

2012年12月31日 | 小説・戯曲
(1)横山秀夫『64(ロクヨン)』(文藝春秋、2012.10.)
  ※刑事部から、嫌で嫌でたまらぬ警務部の広報室に異動になった警部/調査官級/警視承認含みが、刑事部と警務部との権謀術数に捲き込まれて右往左往するうちに、「広報」の本分に目覚め、小細工を排し、職務に忠実たらんとする。それが却って、関係者の本音と信頼を引き出す。併せて、14年前の未解決事件の解決にも資する。例によって例のごとき組織内のうっとうしい人間関係描写には些か鼻白むが、著者の従来の警察小説とはひと味違い、今野敏『隠蔽捜査』ふうの爽快さがみられる。

(2)『三匹のおっさん ふたたび』(文藝春秋、2012.3.)
  ※「【書評】『三匹のおっさん』『三匹のおっさん ふたたび』」参照。

(3)マイクル・クライトン&リチャード・プレストン(酒井昭伸・訳)『マイクロワールド(上下)』(早川書房、2012.4.)
  ※マイクル・クライトンの名を冠する新作を読むことができるのは、これで最後だ。ディック・フランシス逝き、A・J・クィネル逝き,、クライトン逝き、年々歳々愉しみが減っていく。
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

【本】今年のイチ押し ~小説4点~

2012年12月31日 | 小説・戯曲
(1)水村美苗『母の遺産 ~新聞小説~』(中央公論新社、2012.3.)
  ※昨今の母親は、実の娘に自分が果たせなかった夢を押しつけ、過大な干渉を行うらしい。しかも、その身勝手は、娘それぞれの心に傷を残す。少女時代のみならず中年に至るまで。少なくとも、本書の主人公の母親はそうだ。そして、50代にして独り暮らしになると、娘たちをさんざん振りまわす。娘(たち)は、ケガした母に付き添い、毎日差し入れ、実家を売却して介護付き老人ホームに入所する資金を作り、さらにはホーム入所後のてんやわんやに付き添わねばならない。娘(たち)は閉口しながらも、突き放すことができない。本書は、自立(職業ないし結婚・離婚)から非自立(介護する立場・される立場)まで、現代の女の一生を描く。それと同時に、日本の小説史をなぞるがごとき仕掛けがあって、「新聞小説」と副題される所以だ。
  第39回大佛次郎賞受賞作品。

(2)池澤夏樹『氷山の南』(文芸春秋社、2012.3.)
  ※近未来小説。オーストラリアの逼迫する水不足を解消すべく、「シンディバード」号が南極から氷山を曳航することになった。本書は、この気宇壮大なプロジェクトを縦軸に、アイヌの血をひく日本人留学生ジンの活躍を横軸とする。密航を企てたジンが、パン焼きと船内新聞の発行という役割を与えられることで、自在な描写が可能になり、奇怪な登場人物たちが冒険小説の奥行きを増す。自然と文明に関する池澤的考察が、小説に厚みをもたらしている。

(3)加賀乙彦『雲の都 第四部 幸福の森』(新潮社、2012.7.)
(4)加賀乙彦『雲の都 第五部 鎮魂の森』(新潮社、2012.7.)
  ※(4)は、長編連作「雲の都」の最終巻であるとともに、長大な「永遠の都」シリーズの掉尾をなす。(3)は「永遠の都」および「雲の都」第三部までの内面を活写する文体を引き継ぐが、(4)は『高山右近』や『ザビエルとその弟子』のバロック的文体に倣う。
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン