語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【選挙】右派勢力にとって千載一遇の好機 ~戦後民主主義のレジーム解体~

2012年12月13日 | 社会
 (1)早期解散は、自民・公明にとって干天の慈雨だった。第三極の態勢がが整わないうちに、民主党の分解を伴って解散してくれたのだから。党首討論における安部総裁の狼狽を補って余りあるプレゼントだ。
 野田首相が一発で倒したのは、実のところ、民主党自体だった。

 (2)新旧の大根役者が入り乱れて戦う選挙戦で、本当に問われているのは政争争点(原発やTPP)以前に、民主主義の基本原理を持続できるかどうか、だ。
 自民党は、安部総裁の下で、憲法改正と国防軍創設を前面に打ち出している。
 さらに、その右端には、日本維新の会が立ち上がり、核武装や徴兵制を「個人的に」唱える政治家が指導者となっている。
 自民党と日本維新の会に共通しているのは、戦後レジームの打倒【注】という意欲だ。
 民主党の政権能力欠如ゆえに強い指導者を待望する空気が強まっている上に、隣国との領土紛争でナショナリズムを刺激しやすい状況が重なり、右派勢力にとっては積年の願望を実現する千載一遇の好機となった。

 (3)言うまでもなく、改憲だの核武装だのは、日本の国難を顧みない的外れの自己満足だ。
 そもそも民主主義における国家とは、国民の生命を守り、生活の土台を整備、確保するために存在する。
 今、日本国民の生命を脅かしているのは、外敵ではない。福島第一原発事故に起因する放射能だ。この事故によって、広範な国土が毀損され、10万人超の国民が故郷から締め出されている。日本という国は、国家といしての義務を果たしていない。

 (4)戦後レジームが権利意識を肥大させ、国民が利己的になった・・・・などと説教したがる見当外れの政治家が、右派政党のトップにいる。
 冗談ではない。
 増長し、自分の利益だけを追求しているのは、
  (a)原発事故を引き起こした電力会社の経営幹部、
  (b)そうした政策を続けてきた官僚や学者、
  (c)そうした政策を最終的に決定してきたかつての政権党
ではないか。
 教育だの憲法だのを語るのは、政治、行政、経営に携わる者が償いの義務を果たしてからにしてもらいたい。

 (5)政治の任務という点では、民主党も厳しい反省から選挙戦を戦わねばならない。
 民主党の最大の誤りは、官僚的発想に染まったことだ。
 国家財政という狭いまな板に生身の国民を載せて、はみ出す部分を切り捨てるのが役人の発想だ。民主党政権も、被災者救済について同じ発想に染まってしまった。

 (6)これから、社会保障でも(5)と同じことが起きそうだ。
 本来の政治の任務は、国民の生命を守るためにどれだけの資源が必要かを測り、国民を説得してそれを集めることだ。細かい政策より、この基本姿勢を明らかにすることが民主党に求められる。

 (7)民主主義の基本を守るのか、捨てるのか、という選挙において、メディアの果たすべき役割は極めて大きい。
 選挙報道において、候補者の扱いについて公平を確保することは言うまでもない。しかし、人間の尊厳をわきまえないような政治家を同列に扱うのは疑問だ。
 他方、当たり前のことだが、民主党は政権党として、これまでの政権運営について厳しい追及を受けなければならない。
 同時に、かつての政権党や右翼的第三極の指導者は、過去の言動、行状が吟味され、政治家の適格性が問われる。
 
 【注】例えば石原慎太郎・維新の会代表の、地方自治レベルにおける戦後レジーム解体(「【選挙】石原都政で何が失われたか ~福祉・医療・教育・新銀行破綻・汚染市場~」)。

 以上、山口二郎「総選挙で論ずべきことは民主主義に対する姿勢」(「週刊東洋経済」2012年12月15日号)に拠る。

 【参考】
【選挙】自民党の公約を整理すると浮き上がる矛盾
【選挙】安倍自民党総裁が財界に支持される理由 ~官僚的体質~
【選挙】安倍晋三の軽佻浮薄と無定見 ~経済政策~
【選挙】安部自民「タカ派路線」のジレンマ
【選挙】世界はネットで政治参加している ~米国と韓国~
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【選挙】小泉「改革」の悪夢は甦るのか ~「失われた20年」の元凶~
【選挙】【原発】安部自民と石原維新がもたらす経済損失 ~変化しつつある経済システム~
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