語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【欧州】難民流入急増で揺れる欧州の世論と基本理念

2015年11月19日 | 社会
 (1)難民の流入急増による欧州の動揺が続いている。
 2015年1月から9月までの欧州への難民流入人数は、前年同期の2倍に近い約75万人という数字になった。難民の多くは、シリア、アフガニスタン、イラクなどから紛争を逃れてきた人びとだ。欧州の世論は、おおむね彼らに同情的で、ボランティアによる積極的な支援活動が伝えられる一方、あまりに急な流入ペースに不安もまた広がっている。

 (2)スイスとポーランド・・・・10月に行われた総選挙では、難民受け入れに反対の党が躍進した。
 ドイツ・・・・欧州の中で難民支援に最も前向きな国のひとつだが、少なからぬ抵抗が見られる。メルケル首相は、難民を積極的に受け入れる方針を掲げてきたが、10月の世論調査では、支持率が4年ぶりの低水準まで急落した。支持率の水準自体は51%と依然として高く、政権基盤が揺らぐほどではないが、メルケル首相の難民対策は軌道修正が必至となった。
 ドイツの市民は、難民の受け入れ自体には賛成だが、首相の方針が無制限かつ無秩序な流入につながりかねない点を不安視している。

 (3)英国・・・・難民問題に敏感に反応している。わけても英国のEU離脱をめぐる議論への影響が顕著だ。2017年末までに実施される予定の国民投票に関する世論調査では、①「残留に投票する」と②「離脱に投票する」について、
   昨年末以降8月の調査まで・・・・①の回答が②を上回っていた。
   9月の調査・・・・①38%、②40%と逆転。
   10月の調査・・・・①と②ともに40%と拮抗。
 英国は、欧州内の人の移動について国境検査を不要とするシェンゲン協定に参加していない。難民の影響は他のEU加盟国に比べれば小さいといえるが、それでも有権者の懸念は根強いようだ。

 (4)こうした状況のなかで、英国では残留派・離脱派両陣営の活動も次第に活発になってきた。
 10月にかけて、①EU残留を主張する政治家や産業界の代表者がキャンペーン団体を立ち上げた。②離脱派のキャンペーン団体も活動を始めた。
   ①「ブリテン・ストロンガー・イン・ヨーロッパ(欧州の中でより強くなれる英国)」
   ②「ボート・リーブ(離脱に投票を)」、「リーブ・EU(EUからの離脱)」
 キャメロン首相は、①の世論を後押しするため、国民投票前にEUと交渉して英国に有利な条件を引き出したい、と考えていて、12月のEUサミットを目先の交渉のヤマ場と見ているようだ。
 外交面での働きかけも活発化が見込まれる中、11月初めにはオズボーン財相がドイツを訪問し、メルケル首相やショイブレ財相と会談した。オズボーン財相は、EUの中でユーロ加盟国と、非加盟国(<例>英国)が互いの経済的利益を尊重しあう枠組み「二つのスピードの欧州」を提案し、好感触を得た模様だ。
 一方、メルケル首相は、人の移動の自由を含むEUの基本理念の変更には賛同できない、とくぎを刺している。英国の一般有権者の関心が高い移民・難民問題は引き続き交渉課題として残っている。
   
 (5)シリアなど中東情勢が続く中、欧州をめざす難民の数は今後も高水準で推移する可能性が高い。各国でさまざまな波紋を広げることになるだろう。 

□高山真(三菱東京UFJ銀行経済調査室ロンドン駐在)「難民の流入急増で揺れる欧州の世論と基本理念 英国はEU離脱派が増勢」(「週刊ダイヤモンド」2015年11月21日号)
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