語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】岩田宏「ささやかな訪問」

2015年07月21日 | 詩歌
 ありふれた電車があり
 ありふれたバスがあり
 見知らぬ町筋がある
 ありふれた八百屋があり
 気のふれた犬が走り
 ありふれたカリフラワーがある
 見知らぬ門があり だしぬけに
 四年ぶりの友だちがいる 敷居の外には
 七百人の敵がいる

 意味ありげに 気味悪げに
 ぼくらは互いの顔を見つめた
 友だちは秘密の戸棚から
 つぎつぎと出してみせた
 ぬるい茶を ふるい茶柱を
 つめたいつまらない菓子を
 青い一升瓶を 赤いアルバムを
 産み月の奥さんを たくさんのホオズキを
 七千もある自分の癖を

 実をいえば ぼくらはかつて
 匿名の革命をやるつもりだった
 実をいえば 革命はとうの昔に
 ぼくらを見棄てた筈だ してみれば
 ほかにどんな話題があるだろう
 女を語るか? 酒を? 魚を?
 ブルガリアを? サビシガリアを?
 遠くの海を? 近くの埋立地を?
 七億もいるぼくらの仲間を?

 さよなら さよなら さよなら
 また四五年は逢えないだろうな。

□岩田宏「ささやかな訪問」(『頭脳の戦争』(思潮社、1962)所収)
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 【参考】
【読書余滴】すべてをルフランに変える青春の無知




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