①高樹のぶ子『オライオン飛行』(講談社 1,600円)
②デブねこ研究会・編『読むだけでやせる! デブねこ格言』(辰巳出版 1,200円)
③清眞人『ドストエフスキーとキリスト教 イエス主義・大地信仰・社会主義』(藤原書店 5,500円)
(1)①は、1936年に九州で墜落し、重傷を負って九州帝国大学附属病院に入院したアンドレ・ジャピー(フランス人飛行士)という実在の人物に、創作上の人物を何人か絡ませて編んだ作品だ(感動的)。ところどころに高樹氏が登場し、作品を鳥瞰したコメントを差し挟む(面白い)。
〈例〉
<他人の人生を想像すること、心身の内側に入って動き回ることは、その人への愛の実践そのものだと覚悟してみると、彼らも不完全な人生の中から、精一杯の宝を差し出してくれるのではないか。これは希望である。すでに骨になり、魂も記憶も消えてしまった人たちと関わり合うのに、他にどんな方法があるだろう>
読めば人生をより豊かにしてくれる本だ。
(2)②には、立派な体格の猫が次々に登場する。
<オレ、猫。オレたちの世界で有名なことわざ「エサは寝て待て」。ゴロゴロしながら上目遣いでにゃーんっていっとけばエサが出てくる。カロリー消費ゼロなのに摂取カロリー過剰。太るよね>
この指摘は人間にも当てはまる。佐藤優も摂取カロリーを減らさなくてはと再認識した。ちなみに、本書には佐藤優宅の猫が2匹、名は記されていないけれども登場している。
(3)日本人によるドストエフスキー論はこれまでに幾つも出ているが、③はキリスト教に焦点を絞った優れた論考だ。
<総じて、ドストエフスキー文学にあっては作中人物たちはほとんど皆長広舌を振る。彼らは論争に熱中する。熱中し過ぎるほどに熱中する。長広舌とは、実にくだんの5冊(引用者注:『罪と罰』『白痴』『悪霊』『未成年』『カラマーゾフの兄弟』)の長編世界のいわば会話作法の如きものである。ドストエフスキーは、ロシヤ人の気質・天性を何よりも「度外れ」であることに、その比類なき激情性・熱中性に見た(参照、第5章・「カラマーゾフ的天性とロシヤ人・・・・」節)。実に一言でいうなら、このロシヤ的激情性・「度外れ」ぶりは本質的にカーニバル的であり、パフチン的にいうなら「真面目な茶番」としてしか展開しようのないものなのだ>
ここにロシア人知識人(インテリゲンチャ)の特徴が端的に示されている。
プーチン・ロシア大統領も知識人なので「度外れ」で「比類なき激情性・熱中性」を持つ。北方領土に関してプーチン大統領は長々とさまざまなおしゃべりをするが、その一つ一つに真面目に取り合うことはない。こういったプーチン発言が「真面目な茶番」であることを理解しておけば十分なのだ。
□佐藤優「人生を豊かにする本 ~知を磨く読書 第170回~」(「週刊ダイヤモンド」2016年10月22日号)
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