語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【豊洲】都庁は伏魔殿 ~小池百合子・都知事の力量~

2016年10月15日 | 社会
 (1)築地の豊洲移転問題がすっかり暗礁に乗り上げている。
 移転と市場の初期プラン、誰がどのように決めてこうなったのか、調べれば調べるほど訳が分からなくなっている。
 移転と初期プランが決定した時期の都知事は石原慎太郎だが、オレは知らん、と言うばかり。先日は「いまの都政になんかいうことありますか?」とといわれて、「都政は伏魔殿なんだよ、伏魔殿」と車の中から短くいい残して去っていった。

 (2)立花隆が1964年に文藝春秋に入社し、週刊文春に配属されて手がけた最初の仕事の一つが都庁の1965年汚職(都議会議長選挙にからみ都議会議長経験者が連続逮捕)の取材だった。
 都庁は、第一代の安井知事の頃から汚職の巣窟であり、利権の売買が半ば公然と行われていた。都は、昔から小さな国家なみの財政規模を持っていたから、そこで日常的に生まれてくる利権がすぐに取引の対象になった。汚職は大なり小なりいたるところにあった。
 近代政治の営みは、どこの国でもすべて行政と議会が密接に関連するところから生まれてくる。汚職も基本的に行政と議会が重なる部分で起こる。ある法案を通せるかどうかを左右できるだけのパワーを持つ議会の大実力者が実は汚職の中心人物という構図が国政にも都政にも当時からあった。だが、そういう人物ほど尻尾を掴ませない。こういう話は証拠なしには書けない(書けば名誉毀損でやられる)。かといって証拠集めも簡単ではない(それは警察検察の役割)。
 立花隆にレクチャーした都政担当のベテラン記者は、記者の役割は全体の構図をわかりやすく見せることにあると教えた。
 こういうところから記者生活を始めたから、後の田中角栄・ロッキード事件に向かう流れは出発点からできていた。
 あの頃の都庁伏魔殿のすぐ向こう側に、国政の伏魔殿が見え隠れしていて、その中心人物として佐藤栄作政権の陰の実力者、田中角栄・幹事長の名前がしきりに取り沙汰されていた。立花隆も都政の黒い霧から田中幹事長の黒い霧追求に移行した。
 これは事件化する寸前のところまでいき、そのあたりまで立花隆は取材現場にいた。途中から、田中幹事長は佐藤首相から事実上の謹慎処分を受け、政治の表舞台からしばらく身を引くことによって事件化を止めてもらったとされる(記者レベルで語られていた当時の政界ウラ情報、多分ホントのこと)。
 要するに、立花隆の個人史において、都庁伏魔殿とのちの田中金脈・ロッキード事件はほとんど一連の流れとして連続している。
 このたびの豊洲移転問題の背後でさかんに取り沙汰されている都議会自民党の大ボス、内田茂・元幹事長なる人物は、顔つきも、その悪さ加減も、(2)の頃の田中幹事長にそっくりだ。

 (3)豊洲移転問題は、この先どうなっていくか。今予測することは全くできないが、小池知事のこれまでの言動から、下手な幕引きは絶対にできないだろう。背景に横たわる問題をあくまで追求して「見える化」っしていこうということになると、相当のことをしなければなるまいが、それはできるのだろうか。
 (2)の頃の田中幹事長の一連の黒い霧事件がウヤムヤになったのは、当時の佐藤首相がそうしなければ自分の政権に火の粉がかかってくると考えて、押さえにはいったことが最大の要因とされている。
 今回は違う。トップの小池知事が、事の真相をあくまで追求、見える化する側に立っている。それに、その右腕になっている人が、若狭勝・元東京地検公安部長で、彼は近日中に小池知事の後任として東京10区選出の衆議院議員になることがほぼ確実だ。豊洲移転問題の背後には、その開発入札過程にまでさかのぼると事件化する可能性があると、これまで発言してきた人でもある。
 この一件、マスコミを味方につけた小池・若狭主導でどんどん重大事件化に突き進んでいく可能性すら出てきているようだ。

 (4)「文藝春秋」2008年1月号に、小池百合子「小沢一郎と小泉純一郎を斬る」が載っている。実に面白い論文で、彼女が政治評論家としてもなかなかの人物ということがわかる。
 1992年に細川護熙の日本新党に参加するところから政治家としてのスタートを切った彼女は、1990年代の政治の中心に常にいた。小沢一郎と小泉純一郎の二人と距離がきわめて近いところにいて、二人を内側から観察していた。その実体験をもとに、この論文の中で日本の政治の流れを実に見事に分析している。特に、途中まで自分が政治の師と仰いでいた小沢一郎を容赦なく批判し、実は彼は大人物ではなく、「政局カード」と「理念カード」というたった2枚のカードをとっかえひっかえ使うだけのシンプルきわまりない政治家と分析するところなど、ナルホドと思わせる。
 こういうキャリアを持つ彼女は、自民党の長老たちよりずっと巧みに政治の流れを読む人だ。今後も、そのような政治家として独自の政治勢力(都知事プラス小池新党?)をかかえ、日本の政治を面白くしていく人だろう。

□立花隆「都庁伏魔殿」(「文藝春秋」2016年11月号)
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 【参考】
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