語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】野口悠紀雄の、経済回復から独り置き去りにされた日本 ~「超」整理日記No.538~

2010年11月22日 | ●野口悠紀雄
(1)日米経済の基本的な違い
 米国の失業率は、高止まりしている。この点で米国経済が大きな問題を抱えているのは事実だ。
 その半面、米国企業の利益は、記録的な水準を更新しつつある。ダウ平均株価は、リーマンショック前の水準を取り戻した。
 日米のパフォーマンスに大差があることに注意が必要だ。このことは、株価をみれば明白だ。11月第2週の日経平均株価は9,700円程度だ。リーマンショック直前の値12,000円(08年9月12日)の4分の3程度でしかない。
 米国企業は、人員整理によって経済危機による利益の急減から回復した。そのために失業率が高くなっているのだ。その半面、企業利益は顕著に回復した。「ジョブレスリカバリー」が進んでいるのだ。経済全体の観点からは問題だ。しかし、企業利益が高水準であることは、将来に向けて成長するエンジンが健在であることを示す。
 翻って、日本は、経済成長の牽引力たるべき企業が利益を回復できないままでいる。
 これが、日米経済の基本的な違いである。

(2)日米経済の具体的な違い
 日本の全産業の純利益は、10年度上半期でもリーマンショック前の95%にしかなっていない。電機産業大手8社は1.4倍になったが、エコポイントの影響があったからだ。つまり政府支援の賜物である。自動車大手7社は、エコカー購入支援があったにもかかわらず、98%の水準にとどまっている。
 米国国内企業の利益の回復は、日本企業より早く、回復率も高い。08年4~6月期と10年同期とくらべると、48.1%の増加で、うち金融業は48.2%の増加、製造業は71.5%も増加である。
 「コンピュータ」はなんと10倍の増加だ。アップルやシスコシステムズなど、他国の企業が追随できない先進的な製品を送り出せる企業が存在することの反映だ。米国経済は、未來に向けて成長する産業をもっていることが、はっきりわかる。
 上記と同期間の日本企業の経常利益は、全産業(金融保険を除く)で15.4兆円から13.2兆円へ、製造業は6.5兆円から4.6兆円へ減少している。個別の企業も同様の傾向がみられる。
 税引き前当期純利益について、直近の四半期決算の値を4倍したものと、リーマンショック前の年次決算の値との比をとってみると、次のとおりだ。
 米国の先端企業グーグルは1.9倍、アップルは3.2倍だ。かなり利益が増大している。
 他方、ソニーは0.62倍、トヨタ自動車は0.67倍だ。リーマンショック前の6割程度にしかなっていない。これまでの利益回復は、政府の購入支援策によるところが大なので、10年度下半期では利益が減少するだろう。

(3)先進国の中で独り置き去りにされた日本
 経済危機から回復したのは、米国だけではない。英国も独国も、株価でみるかぎり、リーマンショック前の水準を取り戻した。
 リーマンショック前の水準より3割低い水準から這いあがれない日本が、世界の先進国の中で例外的存在なのだ。
 なぜか。これらの諸国と日本とで明らかに違うのは、為替レートだ。ここに大きな原因があるのは間違いない。
 だが、経済危機前(07年夏頃まで)に日本円だけが異常に安かったのである。日本企業は、その恩恵を受けて、一時的に利益を増やしたのだ。経済危機後、やっと正常なレベルに回帰しつつあるのだ(実質レートでみれば、1990年代中頃にくらべて、まだ3割ほど円安である)。
 09年以降、中国への輸出が回復し、他方では政府の援助があった。そのために、問題が再び見えにくくなっていた。支援策が終わった今、やっと問題の本質がはっきり見えるようになった。

(4)隠蔽の限界
 現在日本経済が抱えている問題は、本来であればずっと前に顕在化していたはずのものだ。90年代後半以降の為替介入(とりわけ03年頃の大規模な介入)による円安で隠蔽し、経済危機勃発後は政府の補助で隠蔽してきた。
 もやは問題を隠蔽できなくなった。
 企業は、日本国内での生産では対応できないことにようやく気づいた。そして、いま製造業は雪崩をうって日本から脱出しようとしている。
 この結果、日本国内に残されるのは、大量の失業者と過剰な生産設備だ。

【参考】野口悠紀雄「危機前に回復した世界、置き去りにされた日本 ~「超」整理日記No.538~」(「週刊ダイヤモンド」2010年11月27日号所収)
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コメント (2)
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