語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】野口悠紀雄の、法人税率を高くしないで税収を増やす法 ~「超」整理日記No.536~

2010年11月08日 | ●野口悠紀雄
(1)2011年度税制改革の焦点
 焦点は法人税率引き下げである、とされる。法人税実効税率の高さを理由とする。

(2)法人税の実状
 分母に(税務上の利益ではなく)会計上の利益をとると、法人の実際の負担率はせいぜい30%程度にすぎない(「超」整理日記No.530)。
 不況期には企業会計上の利益と税務上の利益の乖離が拡大する(「超」整理日記No.531)。いまの日本ではほとんどの法人が法人税を払っていない。2009年度の黒字法人は、25.5%にすぎない。
 法人税を払っていない企業にとっては、法人税率を下げたところで何の関係もない。

(3)企業が負担する社会保険料の高さ
 法人税の課税所得が赤字であっても、企業会計上も赤字であるわけでは必ずしもない。驚くべし、かかる基本的な事実を認識しない議論が経済政策決定の場で堂々とまかりとおっている。
 法人税は企業の利益に対して課される税なので、企業にとってコストになるわけではない。
 企業にとっての公的負担でもっとも問題なのは、社会保険料の事業主負担である。2010年の「国民負担率」からすると、概ね9%近くが事業主負担だ。法人所得課税の3倍に近い。しかも、利益の有無にかかわらず生じる負担だから、企業のコストを高めることになる。
 「公的負担が企業のコストを高める」と主張したいのであれば、法人税ではなく社会保険料を問題にするべきだ。
 しかも、厚生年金は、基礎年金制度を通じて国民年金の負担の一部を負っている。国民年金保険料の未納が増えると、厚生年金の負担が増える構造になっている。問題視するべきだ(もっとも、企業にも責任はある。企業が非正規雇用を増やした結果、それまでなら厚生年金に加入していたはずの労働者が国民年金の対象とされたのだから)。

(4)法人税改革の方向
 日本の法人所得課税の対GDP比は、1.5%でしかない。英国、伊国、韓国の4割だ。法人負担は高いのではなく、低い。
 こうなるのは、赤字法人が多いからだ。
 1970年代頃まで、赤字法人は全法人の3割程度でしかなかった。1980年代に赤字法人が増えたが、5割程度だった。1970年代になって、7割程度に上昇したのだ。
 つまり、現在の法人税のしくみは、日本企業の利益率低下に適切に対処していない。
 現在の法人税の問題は、負担が全体として重いことではなく、一部の企業に集中してかかる点にある。
 だから、なすべき改革は、税率引き下げではなく、課税ベースの拡大である。たとえば。付加価値は全企業で263兆円程度あるから、これを課税ベースとすれば、5%の税率で13兆円の収入になる。
 利益はかなりの程度操作可能だが、付加価値は操作できない。したがって脱税や節税をしにくい。公平でもあり、経済活動を攪乱することが少ない。
 「広く薄い」課税。これが、来年度予算に係る法人税改革において採るべき方向である。

【参考】野口悠紀雄「法人税引き下げでなく課税ベース拡大が必要 ~「超」整理日記No.536~」(「週刊ダイヤモンド」2010年11月13日号所収)
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