●技術大国・日本は「中国の下請け」になる
日本は、いまや経済、技術分野においてさえ敗北しつつある。21世紀の地球経済を支配する戦略的枠組、「国際標準化」競争でとり残されつつあるからだ。
身近な例は、携帯電話だ。
第3世代(3G)は、第2世代(2G)にくらべて通信速度が10倍以上だ。テレビ放送を含め、データ量の大きい動画も送受信できる。テレビはすでにパソコンに組みこまれているが、3Gの携帯電話はパソコンにとって代わる可能性を示す。
携帯電話の国際標準化で、日本は大敗を喫した。国際標準化で勝利したGSMの規格に、日本はまったく参加していない。NTTドコモのiモード端末は、海外で使えないし、売れない。
国際標準は、「フォーラム標準」または「デファクト・スタンダード」という形で米国が主導してきた。前者は、複数の企業が自分たちの技術やシステムを国際規格として確立する方法だ。後者は、市場を席巻することによってルール以前に事実上の国際標準になるものだ(例:マイクロソフトの「Windows」)。
WTOで「TBT協定」の発効(1995年)によって、世界標準市場に大変化が起き始めた。TBT協定とは、貿易に関する技術的障害を取り除く協定の謂いである。ある規格が国際標準をとっていれば、WTO加盟国は皆、その規格の製品が自国に参入することを妨げることができない。
国際標準は、ISO(国際標準化機構)、IEC(国際電気標準会議)、ITU(国際電気通信連合)などが決定する。米国がいかにデファクト・スタンダードの規格をもっていても、国際標準をとらないと効力を発揮できないしくみになった。米国は、それまで距離を置いていた国際標準を取りにくるようになった。
知的財産権の目にあまる侵害で各国から訴えられ、膨大なロイヤリティの支払いを求められていた中国は、逆にロイヤリティを支払わせる手を見つけ出した。
01年、中国政府はWTOに加盟するとともに、国務院直轄組織として「国家標準化委員会」を設けた。科学技術振興だけではなく、その技術を国際標準として国際社会に認めさせ、中国が21世紀の経済を支配する意図が透けてみえる。
中国の国家標準化委員会は、秘密に閉ざされている。しかし、すでに具体化された事柄から、その手法が見てとれる。ある規格を中国独自の国家標準とし、次の段階でこれを国際標準に格上げしていくのだ。
たとえば、EVDだ。日本の、次世代DVDであるHD-DVDの変復調器の標準を少しだけ変えたものを、中国はChina-H-DVDと名づけ、独自の標準だ、と主張して、国家標準にもっていった。ロイヤリティの支払いを逃れるために。「非常にズルいやり方です」
これを、中国が厚顔にも国家標準と定めてIECに申請し、国際標準になった場合、TBT協定によって、日本のDVDの中国市場への参入を拒否することができることになる。そして、外国企業が中国市場へ参入するには、巨額のロイヤリティを支払わなくてはならなくなる。
元々の技術はこちらが開発した、という自負があればあるほど、納得できないやり方だ。しかし、3G同様、国家標準や国際標準は、取ったものの勝ち、である。
中国が狙うもうひとつの国際基準は、無線LANである。
同分野は、米国がWiFiという規格で、事実上市場を支配していた。ところが、中国はWAPIという国家標準を作った。もし中国政府が国内はWAPIでなければダメだといえば、米国はWiFi製品を売れなくなる。かくて、米中間に深刻な摩擦が起きた。
中国は、開発または模倣した技術を国家標準とし、さらに国際標準に格上げしようとする。そのために、国際標準化機構の幾十もの委員会に代表を送りこむ。
幹事国のポジションをとって自国有利に導くべく、人材を育ててきた。
委員会では、一国一票である。あらゆる手段でアフリカ、アジア諸国に支持を広げてきた。
標準化を審議する委員会でも、中国の国ぐるみの対策が奏功しつつある。
三流国は、製品を売り物にする。二流国は、ブランドを売り物にする。一流国は、国際標準を売り物にする。・・・・これが中国の方針だ。
経済のしくみは大転換したのだ。
【参考】櫻井よしこ『異形の大国 中国 -彼らに心を許してはならない-』(新潮文庫、2010)
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日本は、いまや経済、技術分野においてさえ敗北しつつある。21世紀の地球経済を支配する戦略的枠組、「国際標準化」競争でとり残されつつあるからだ。
身近な例は、携帯電話だ。
第3世代(3G)は、第2世代(2G)にくらべて通信速度が10倍以上だ。テレビ放送を含め、データ量の大きい動画も送受信できる。テレビはすでにパソコンに組みこまれているが、3Gの携帯電話はパソコンにとって代わる可能性を示す。
携帯電話の国際標準化で、日本は大敗を喫した。国際標準化で勝利したGSMの規格に、日本はまったく参加していない。NTTドコモのiモード端末は、海外で使えないし、売れない。
国際標準は、「フォーラム標準」または「デファクト・スタンダード」という形で米国が主導してきた。前者は、複数の企業が自分たちの技術やシステムを国際規格として確立する方法だ。後者は、市場を席巻することによってルール以前に事実上の国際標準になるものだ(例:マイクロソフトの「Windows」)。
WTOで「TBT協定」の発効(1995年)によって、世界標準市場に大変化が起き始めた。TBT協定とは、貿易に関する技術的障害を取り除く協定の謂いである。ある規格が国際標準をとっていれば、WTO加盟国は皆、その規格の製品が自国に参入することを妨げることができない。
国際標準は、ISO(国際標準化機構)、IEC(国際電気標準会議)、ITU(国際電気通信連合)などが決定する。米国がいかにデファクト・スタンダードの規格をもっていても、国際標準をとらないと効力を発揮できないしくみになった。米国は、それまで距離を置いていた国際標準を取りにくるようになった。
知的財産権の目にあまる侵害で各国から訴えられ、膨大なロイヤリティの支払いを求められていた中国は、逆にロイヤリティを支払わせる手を見つけ出した。
01年、中国政府はWTOに加盟するとともに、国務院直轄組織として「国家標準化委員会」を設けた。科学技術振興だけではなく、その技術を国際標準として国際社会に認めさせ、中国が21世紀の経済を支配する意図が透けてみえる。
中国の国家標準化委員会は、秘密に閉ざされている。しかし、すでに具体化された事柄から、その手法が見てとれる。ある規格を中国独自の国家標準とし、次の段階でこれを国際標準に格上げしていくのだ。
たとえば、EVDだ。日本の、次世代DVDであるHD-DVDの変復調器の標準を少しだけ変えたものを、中国はChina-H-DVDと名づけ、独自の標準だ、と主張して、国家標準にもっていった。ロイヤリティの支払いを逃れるために。「非常にズルいやり方です」
これを、中国が厚顔にも国家標準と定めてIECに申請し、国際標準になった場合、TBT協定によって、日本のDVDの中国市場への参入を拒否することができることになる。そして、外国企業が中国市場へ参入するには、巨額のロイヤリティを支払わなくてはならなくなる。
元々の技術はこちらが開発した、という自負があればあるほど、納得できないやり方だ。しかし、3G同様、国家標準や国際標準は、取ったものの勝ち、である。
中国が狙うもうひとつの国際基準は、無線LANである。
同分野は、米国がWiFiという規格で、事実上市場を支配していた。ところが、中国はWAPIという国家標準を作った。もし中国政府が国内はWAPIでなければダメだといえば、米国はWiFi製品を売れなくなる。かくて、米中間に深刻な摩擦が起きた。
中国は、開発または模倣した技術を国家標準とし、さらに国際標準に格上げしようとする。そのために、国際標準化機構の幾十もの委員会に代表を送りこむ。
幹事国のポジションをとって自国有利に導くべく、人材を育ててきた。
委員会では、一国一票である。あらゆる手段でアフリカ、アジア諸国に支持を広げてきた。
標準化を審議する委員会でも、中国の国ぐるみの対策が奏功しつつある。
三流国は、製品を売り物にする。二流国は、ブランドを売り物にする。一流国は、国際標準を売り物にする。・・・・これが中国の方針だ。
経済のしくみは大転換したのだ。
【参考】櫻井よしこ『異形の大国 中国 -彼らに心を許してはならない-』(新潮文庫、2010)
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