語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『ベ平連と脱走米兵』

2010年11月16日 | ノンフィクション
 著者は、同志社大学を中退し、東京でクズ屋に就職した。その年、1965年4月、ベ平連こと「ベトナムに平和を! 市民連合」の最初の反戦デモが行われ、著者も参加する。開高健の知遇を受け、ベ平連の事務局員となった。同年11月、ベ平連はニューヨーク・タイムズのまるまる1ページに反戦広告を載せた。
 こうした活動を支えた個性ゆたかな「市民」たちが回想される。
 また、脱走米兵の逃避行に付き添った体験談も綴られている。
 1967年10月、空母イントレピッド号から4人の兵士が脱走した。これを契機に、ベ平連の中に米兵脱走を支援する「JATEC」が組織された。2年間に16人の脱走兵がスウェーデンにわたった。著者も、ジャテックに関わった2千人の一人であった。
 全5章のうち2つの章は他とやや異質で、ベトナムとそこで出会った日本人に焦点をあてている。1966年12月、著者はベ平連の仲間に推されてベトナムに渡り、半年間を過ごした。砲撃され、爆撃される側の農民、じつは元日本兵をスケッチし、その元日本兵が50年ぶりに一時帰国した模様を伝える。
 本書の主題は、ベ平連事務局、脱走米兵、ベトナムの元日本兵・・・・の三つに拡散しているから、一冊の本としては統一感に欠ける。少なくとも最初の二点にテーマを絞りこむべきであった。
 しかし、勃興する市民運動の魅力は、しかと伝わってくる。その魅力とは、次のようなものである。「『ベ平連』は、さながら万有引力が働くように、人と人とが互いに通じあい、作用を及ぼしあうコミュニケーションの『場』であった」(あとがき)

□阿奈井文彦『ベ平連と脱走米兵』(文春新書、2000)
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