「トルコと諸外国の言語観の違い及びクルド諸語に関する報告書」・・・・
これを著者は、前述のプランに基づきフランス語で書き下ろした。原稿完成の時期は本書に明記されていないが、依頼の数ヶ月後、1999年6月13日以前のことである。
トルコ人翻訳者によるトルコ語訳は、8月までに一応完成したらしい。
その仮訳を著者が校正し、併せて推敲を加える。これをまたトルコ語訳する。こうした作業は順調に進んだ。
11月12日、報告書にもう1章追加してくれ、という要請が入った。クルド諸語のうちトルコ国内に語域のあるクレマンチュ語に関してもっと詳しく書いてほしい・・・・。
追記し、訳し、また練りなおす。作業は何ヶ月もかかった。
ラズ語域を旅行中、2000年7月31日付けファックスが届いた。一瞥し、著者は憤激した。報告書が改竄されていたのである。
帰仏後、同年8月10日付けファックスで、著者はトルコ総理府出版管理局に抗議した。翻訳は全面的にやり直せ・・・・。
改竄したのはギュンディズ・アクタンだ、と著者は断定する。
彼は、当時トルコ語への翻訳と出版を行う機関の長だった。著者は後になって知るのだが、この人物はトルコ国内の少数民族の言語と文化を抹殺することに情熱を抱いている人なのであった。ギュンディズ・アクタンは、2007年、トルコ上院議員に当選する。所属政党はMHP、極右の国粋主義政党であった。
ところで、報告書全6章の各章の概要は、次のようなものだ。
なるほど、たしかに「極右の国粋主義者」なら横から口を出したくなる内容である。
(1)何故この報告書をトルコ語で書き下ろさないのか
音声学や言語学の基本的な概念・・・・母音、子音、有声音、無声音、有声音の無声化、祖語、母言語、言語、方言などを表すトルコ語の語彙は、現状では不備である。
フランス語で執筆する。これをトルコ語に、説明的に訳してもらう。
なお、言語は、トルコの学校で教えているような「共通の祖語から木の枝のように分かれていくもの」だけではない。随時近隣の同源・非同源の複数の言語から語彙や表現を取り入れながら、重層的に進化してくものである。
(2)ウラル・アルタイ語族神話
「ウラル・アルタイ語族に属する」とトルコの学校で教えている幾つかの言語の基礎語彙を比較してみると、この作業仮説には「そもそも仮説を立てる根拠がない」ことが判明する。
未証明の作業仮説をあたかも証明済みであるかのように引用したり、教えたりしてはならない。
(3)方言連続体
言語はすべて方言であり、方言はすべて言語である。換言すれば、言語と方言の間に明確な境界はない。
まして、「公用語」や「標準語」だけが「言語」なのではない。
なお、複数の「公用語」が同一の方言連続体に属している例が多数ある。
(4)トルコ人のすべてが中央アジア出身ではない
トルコ国民の大多数は、アナトリアの先住民の子孫である。トルコの学校で教えていることとは逆に。
(5)多民族共和国
トルコは、多言語・多民族国家である。このことは、周知のことだ。
よって、「トルコにトルコ語以外の言語は存在しない」とするトルコの言語政策は、当然ながら、国外から「正気の沙汰ではない」と見られている。
(6)クルド語とザザ語
ザザ語は、クルド諸語のうちに入らない。
クルド人の主張している「大クルディスタン」は、幻想である。このことは、ザザ語をクルマンチュ語と同時に「自由化」すれば、クルド人にもよくわかるだろう。
【参考】小島剛一『漂流するトルコ -続「トルコのもう一つの顔」-』(旅行人、2010)
↓クリック、プリーズ。↓
これを著者は、前述のプランに基づきフランス語で書き下ろした。原稿完成の時期は本書に明記されていないが、依頼の数ヶ月後、1999年6月13日以前のことである。
トルコ人翻訳者によるトルコ語訳は、8月までに一応完成したらしい。
その仮訳を著者が校正し、併せて推敲を加える。これをまたトルコ語訳する。こうした作業は順調に進んだ。
11月12日、報告書にもう1章追加してくれ、という要請が入った。クルド諸語のうちトルコ国内に語域のあるクレマンチュ語に関してもっと詳しく書いてほしい・・・・。
追記し、訳し、また練りなおす。作業は何ヶ月もかかった。
ラズ語域を旅行中、2000年7月31日付けファックスが届いた。一瞥し、著者は憤激した。報告書が改竄されていたのである。
帰仏後、同年8月10日付けファックスで、著者はトルコ総理府出版管理局に抗議した。翻訳は全面的にやり直せ・・・・。
改竄したのはギュンディズ・アクタンだ、と著者は断定する。
彼は、当時トルコ語への翻訳と出版を行う機関の長だった。著者は後になって知るのだが、この人物はトルコ国内の少数民族の言語と文化を抹殺することに情熱を抱いている人なのであった。ギュンディズ・アクタンは、2007年、トルコ上院議員に当選する。所属政党はMHP、極右の国粋主義政党であった。
ところで、報告書全6章の各章の概要は、次のようなものだ。
なるほど、たしかに「極右の国粋主義者」なら横から口を出したくなる内容である。
(1)何故この報告書をトルコ語で書き下ろさないのか
音声学や言語学の基本的な概念・・・・母音、子音、有声音、無声音、有声音の無声化、祖語、母言語、言語、方言などを表すトルコ語の語彙は、現状では不備である。
フランス語で執筆する。これをトルコ語に、説明的に訳してもらう。
なお、言語は、トルコの学校で教えているような「共通の祖語から木の枝のように分かれていくもの」だけではない。随時近隣の同源・非同源の複数の言語から語彙や表現を取り入れながら、重層的に進化してくものである。
(2)ウラル・アルタイ語族神話
「ウラル・アルタイ語族に属する」とトルコの学校で教えている幾つかの言語の基礎語彙を比較してみると、この作業仮説には「そもそも仮説を立てる根拠がない」ことが判明する。
未証明の作業仮説をあたかも証明済みであるかのように引用したり、教えたりしてはならない。
(3)方言連続体
言語はすべて方言であり、方言はすべて言語である。換言すれば、言語と方言の間に明確な境界はない。
まして、「公用語」や「標準語」だけが「言語」なのではない。
なお、複数の「公用語」が同一の方言連続体に属している例が多数ある。
(4)トルコ人のすべてが中央アジア出身ではない
トルコ国民の大多数は、アナトリアの先住民の子孫である。トルコの学校で教えていることとは逆に。
(5)多民族共和国
トルコは、多言語・多民族国家である。このことは、周知のことだ。
よって、「トルコにトルコ語以外の言語は存在しない」とするトルコの言語政策は、当然ながら、国外から「正気の沙汰ではない」と見られている。
(6)クルド語とザザ語
ザザ語は、クルド諸語のうちに入らない。
クルド人の主張している「大クルディスタン」は、幻想である。このことは、ザザ語をクルマンチュ語と同時に「自由化」すれば、クルド人にもよくわかるだろう。
【参考】小島剛一『漂流するトルコ -続「トルコのもう一つの顔」-』(旅行人、2010)
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