語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『世界の民話』~モンゴルの馬頭琴~

2010年11月21日 | 神話・民話・伝説
 民話にはお国柄がもろにあらわれる。
 モンゴルを例にとろう。
 小沢俊夫の解説によれば、(1)動物や魔法が重要な役割をはたす。(2)知恵、悪知恵、特殊な能力で相手をまかす主人公が多い。(3)主人公には次の2つのタイプがある。
 すなわち、(a)単純な少年、貧しい親の子、父親のいない子、若い狩人、馬飼い少年で、かつ、いつも正義を愛し、よこしまな領主をこらしめる(領主や長老はつねに悪漢とされる)。(b)人生経験が豊かで知恵に満ちた老人。
 たしかにモンゴル民話には馬、牛といった動物が頻繁に登場し、しかも家族同然の身近さで語られる。
 たとえば、「馬頭琴はどのようにしてでき上がったか」

 スホーという17才の牧童は人気のある歌手でもあった。
 スホーは草原で拾った仔馬を育てた。仔馬は雪のように白く美しく丈夫なポニーに成長した。狼退治を契機に、一人と一匹はそれまで以上に親密な友だちとなった。
 王さまがラマの寺院で競馬を開催した。勝てば王の娘をめとることができる、という。スホーは参加し、真っ先にゴールを駆けぬけた。
 しかし、王さまはスホーの身分をさげすんで、金貨3枚だけ与えて下がらせようとした。
 スホーは違約をなじった。
 王は怒り、家来にスホーを痛めつけさせ、追い出した。ポニーは王さまに奪われた。
 ある夜、ポニーがスホーの貧しい家に逃げ戻ってきた。7、8本の矢が体に突きささっていた。ポニーは死んだ。
 嘆いて眠れず、転々とするスホーの枕元にポニーがあらわれて言った。
「私の骨で胡弓をつくってほしい」と。
 翌朝、スホーはポニーの骨を刻んで馬の頭をつくり、その腱で弦をつくって張った。そして歌った。ポニーに乗って走った時のすばらしい気持ちを。悪い王さまに対する怒りを。スホーの胡弓は民の声となった。みんなは、仕事を終えた夜、スホーの胡弓を聞くために集まるようになった・・・・。

 この昔話は、民族になじみ深い道具の起源を説明する。説明は胡弓の構造に及ばず、楽器としての機能からすると副次的な装飾の説明をもっぱらとする。装飾は説明しやすく、音楽は説明しがたい。
 先年、知人の画廊を訪ねたら、モンゴル人の家族連れが馬頭琴を演奏していた。うら寂しい音色だが、底力のある響きで、広大なステップの住民にふさわしい、と思われた。

 本書は、世界の民話シリーズ全12巻の中の一。中国、モンゴル、シベリア、朝鮮の4か国の民話61編をおさめる。

□小沢俊夫編(笹谷雅訳)『世界の民話3 アジア1』(ぎょうせい、1971)
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コメント (1)
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