語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】世界vs.中国(2) ~続・世界のオピニオン・リーダーに聞く~

2010年11月05日 | 社会
 「週刊東洋経済」特集:世界vs.中国/KY超大国との付き合い方・・・・のうち、「世界のオピニオン・リーダーに聞く」というインタビュー記事が4編収録されている。ここでは、前回の残り2編をとりあげる。

1 マーティン・ジャックス(ジャーナリスト、ロンドン大学LSEフェロー、中国人民大学客員教授)
  こちらを参照。

2 金燦栄(中国人民大学国際関係学院副院長、中国人民大学教授)
  こちらを参照。


3 エリザベス・エコノミー(米国外交問題評議会(CFR)アジア研究部長)
 米中主導による世界統治を唱える「G2」構想。これに疑義を呈する代表的な論者がエリザベス・エコノミーだ。

(1)中国の台頭がもたらす地政学的影響
 まず、中国の国内事情を観察せよ。
 中国は、2000~30年に4億人の農民工を都市に定住させようとしている。しかし、それは世界に甚大な影響を及ぼす。中国は、資産確保を目的に、世界各地の発展途上国に進出しているからだ。中国は、他国のインフラ整備に乗りだし、中国人労働者を送りこみ、同時に労働、環境安全面での劣悪な慣行を持ちこむおそれがある。
 また、中国はイランとの間で経済関係を築いているため、イランの核開発計画に制裁を加えようとしている米国などへの協力に消極的態度を示している。

(2)中国の将来予測
 きわめて難しい。
 金融制度や深刻な環境破壊など、さまざまな問題が次々と生じている。
 中国の6大都市では、深刻な水不足に陥っている。中国西部では、湖や河川が枯渇しつつある。地下水の枯渇が原因で、都市が陥没する問題も生じている。
 中国には、社会不安もある。抗議行動の発生件数は、増大傾向にある。これまで大半は地方で起きていた抗議行動が、今では都市でも発生するようになっている。
 成長を続けるだろうが、現状よりは少しは緩やかな成長になるだろう。

(3)海軍力増強
 パワー拡大の自認につれ海洋で海軍のプレゼンスを増強し、尖閣問題などさまざまな軋轢を生んでいる問題については、米国、日本、東南アジア諸国は週1回、または月1回のペースで議論を重ねる必要がある。
 問題は、太平洋にかぎらず、より広範にわたる。ドル基軸体制に対する異議の意図(中国人民銀行総裁)、南シナ海紛争がらみでの中国は大国、東南アジアは皆小国、という発言(外相)。近海防衛から遠洋防衛に軸足を移している、という人民解放軍の発言(2007年)。中国は、グローバルな大国だと見なすようになってきている(重要な変化)。中国は、「他国と協議することなしに自国の利益を強引に主張できる」と考えているのだ。
 中国は、軍事力を米国に対抗できる規模まで増強しようとしている。中国がオープンで透明性が高く、諸外国がその意図を了解し、協力できるような国であれば中国の勢力拡大はけっこうなことだ。しかし、事実は違う。
 中国の政治体制は、今後10~20年間に、より自由化する可能性が高い。中国では、インターネット、とりわけツイッターが政治的動員をかける重要な力になっている。

(4)新興国台頭による資源不足
 今後、政界の緊張をさらに高める可能性は高い。
 青海チベット高原で河川を管理しようとしていることに対し、インドが強い懸念を表明している。中央アジアや南アジアへ流れこむはずの水の流れを変えることについて、この地域の国々が危惧している。レアアースに関する中国の行動も、世界各国にとって重大な警鐘となった。

(5)中国への日米両国の対応
 (ア)中国が国境に攻勢をかけてきたら、果敢に立ち向かい、そこから出ていくよう警告を発すること。中国に立ち向かえば、中国は思いとどまる。逆に少しでも譲歩したら、中国側はさらに要求を強めてくる。
 (イ)日米は協力して対処しなければならない。世界中のビジネス界が声をそろえて「中国の取引慣行は不公正だ」と主張すれば、中国はもっとましな対応をするようになる。
 (ウ)日米は、中国に対する取組みを継続する必要がある。今後も中国と話し合い、中国に対処し続けなければならない。


4 ロバート・カプラン(ジャーナリスト、新米国安全保障センター シニア・フェロー)
 中国の軍事力強化を軽快する声が米国で高まっている。ロバート・カプランは、地政学、安全保障に造詣が深く、カート・キャンベル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)のブレーンを務める。

(1)米国との軋轢
 中国は、これまで世界中で築いてきた利益を守るために軍事力を強化している。今の中国は、史上かつてないほど安定しており、海に目を向ける余裕が出てきている。太平洋への出口に位置する島々への勢力伸張、インド洋における海軍のプレゼンス強化、インド洋沿岸諸国港湾整備の積極的支援・・・・中国は、エネルギーの大部分を中東から得ているのだ。
 中国の軍事面での台頭は、不当ではないが、米国との間に軋轢を生む。第二次世界大戦以来、西太平洋は米国の湖のようなものだったが、今やその状況が変化しつつある。中国がこの動きをどこまで推進するかは、現段階では明確ではない。

(2)南シナ海
 軍需品調達をみると、中国は一律に海軍基盤の整備を図っているわけではない。中国は、弾道ミサイルや潜水艦、空中・海中で移動する目標に対する攻撃力を重視している。米国海軍の東アジアへのアクセスを阻止することは、米国にとっては懸念材料だが、中国にとっては道理にかなっている。
 中国にとって、南シナ海は西太平洋に位置する縁海である。米国が公海であるカリブ海を支配しようとしてきたのと同様に、中国は南シナ海を支配しようとしている。

(3)中国指導部内の力関係
 歴史的に中国では軍部はつねに適切に統制されてきた。にもかかわらず、ここ数十年にわたり軍事力、ことに海軍を強化してきた。背景に、中国中枢部における一部軍関係者の発言力拡大があるのだろう。ここ1年間、中国政界において、軍部の強硬論者が勢力を強めてきた、と聞く。

(4)周辺諸国
 日本の民主党政権は、当初米国から距離を置こうとした。しかし、最近の中国の動きをみて、この地域における勢力バランスを保つために米国が必要だと認識した。
 オーストリア、インドネシア、マレーシアなどについても同様だ。パワーの均衡を保つため、米国を切実に必要としている。

(5)中国の弱点
 米国には同盟国がある。アングロサクソン圏があり、1日24時間、常時情報を共有していて、米国は余分な手間をかけなくても力を誇示できる。また、日本、韓国、台湾、フィリピンとの同盟関係もある。インドも、米国の事実上の同盟国だ。
 中国には、こうした同盟関係が皆無だ。だからこそ、中国は“愛される”ためには、特別な努力が必要になる。

(6)基地問題
 日本は、中国の台頭という現実があるからこそ、米国との緊密な同盟関係を維持する宿命にある。
 さらに、21世紀のある時点で、朝鮮が統一する可能性がある。その統一国家は日本に対して一定の敵意を抱くだろう。日本の地政学的状況は、厳しいものとなるはずだ。 
 日米の同盟関係をうまく運営するためには、米軍基地に関する問題を処理しなくてはならない。大規模な米軍基地に対する国民の反感をどう鎮めるか。最良の策は、基地を海軍基地に限定することだ。海軍基地は、陸軍基地ほど広い土地を必要としない。日米両国は、海兵隊および兵士を日本の国外へ移転させる一方で、日本の港が今後も米国の軍艦を積極的に受け入れる方策を策定しなくてはならない。受け入れ国に迷惑をかけているのは地上軍であり、海軍がかかわる問題はずっと少ない。
 結局、問題は、日本における米軍駐留の取り決めが、今後どういうものになるかに帰着する。

【参考】「週刊東洋経済」2010年11月6日号
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