事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

罪の声PART2

2017-05-02 | ミステリ

PART1はこちら

異様な仮名遣い、ディープな関西弁、警察をおちょくるような内容、それでいて国民の恐怖を喚起する点はきちんとおさえているなど、こんな言い方は不謹慎だが犯人のクレバーさは疑いない。なにより、かい人21面相というネーミングは江戸川乱歩の猟奇を思い起こさせて効果的だった。

犯人の異様さはもうひとつ。恐喝に子どもを使ったことだ。企業への指示に子どもの声を使用。ボイスチェンジャーなどを使うよりもよほど簡便で、当人は理解していないだろうから理解できないはす。しかも恐怖は増す……

「罪の声」は、父の遺品のなかにその恐喝のテープを見つけ、この声は自分の子どもの時のものだと戦慄する男性が主人公。はたして父親はあの事件の犯人なのか、真相を知りたくはあるけれども、同時に知りたくない気持ちとの相克。

圧倒的に面白い。新聞記者出身の作者、塩田武士がおそらくは自分をモデルにした、熱血ではないのに真相にたどり着いてしまう記者を主人公と関わらせる仕掛けも効いている。

クレバーでありながら、粗暴な側面も見せる犯人たちが、実はふたつに割れていたのではないか、とか、キツネ目の男にある条件を付与することによって事件の様相が変わって見えるなど、ミステリとしても一級品。

グリコ・森永事件の捜査資料と矛盾しない形でピースをきちんとはめてあり、とても気をつかった表現を使用するなど、時間をかけてていねいに書かれた小説であることがわかる。

反体制的な匂いから、犯人は左翼的な人物なのではないか、という世間の予想とこの作品の結末を比べるのも一興。

同様の趣向(あちらの犯人の動機は差別問題でしたが)だった高村薫の「レディ・ジョーカー」とは違った意味で傑作。週刊文春のミステリーベストワンは伊達じゃない。さて、犯人たちは今どこでどうしているだろう。

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