事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「短歌ください」 穂村弘編 マガジンハウス

2012-09-17 | 本と雑誌

4840138648 短歌って、ほんとうによくわからない。たとえば新聞の投稿歌壇があるじゃないですか。選者によってチョイスはもののみごとに違っていて、ほとんど重なることがない。多種多様な評価軸があるということなのだろう。ただ、穂村弘によってセレクトされた「短歌ください」(雑誌ダ・ヴィンチの短歌募集コーナーの書籍化)は、いずれも傑作ぞろい。気に入った歌に付箋をつけていたら一束使い切ってしまった。

こんな感じ。

逢うたびに君の葬儀の挨拶を考えながら覗く横顔

旗をふる人にまぎれて旗をふるだれも応援しませんの旗

「日本野鳥の会」にいたという人よ わたしをかぞえたことありますか

たっぷりと砂糖をいれたヨーグルト鈍い爆発音が聞こえた

つむってもひかりが入ってくるのです。うすい瞼はお嫌いですか?

イカ墨のパスタを皿に盛るように洗面器へと入れる黒髪

このはさみで家のあかりをひとつずつ四角く切り取るはらはら散らす

泣きながらワサビの小袋に納得す「こちら側のどこからでも切れます」

ペガサスは私にはきっと優しくてあなたのことは殺してくれる

カタツムリ踏み潰すのに似ているね そんなところにキスをすること

君は君の匂いをさせて眠ってる同じシャンプー使った夜も

忘れるな明日はみんな黒い服決めたんだもう蝶か蛾になる

今顔が新種の猫になってもいいや歩道の白だけ歩く

今はただ並んで歩くオオカミの末裔もまたサルの末路も

マヨネーズ時計ではかるゆうぐれの時間は赤いところへ降りる

ヴォリュームをゼロに落としたラジオから一番好きな歌が聴こえた

肩車君にされつつ電球をきゅるきゅる回す顔横にして

窓からは東京タワー 口からはフライドチキンの骨が出てくる

目をあけたままで眠ったことにする人形だから許される嘘

殺傷力ナンバーワンはこの方です!キーボード所属エンターキーさん!

「大丈夫、お前はやれる」拒否された10円玉をきつくねじ込む

ねぇ、あしたふたりで下剤飲もうかと日射しのなかできみは笑った

「罪」という鞄を持ったたくさんの男の人が揺れている朝

君じゃなく苦手な上司の口癖が移ってしまう Enterを押す

「ぬいぐるみみたい」その猫の瞳に君は食えない肉に映ってる

まっすぐにぶつかってきてくれるぶん雨は君よりやさしいものだ

楽園じゃないと言ったろ血へどまできらめくただの死なない国だ

いつの日かわたしに殺されることを怖れるような父の「くん」付け

「あたしも」と必ず後から手を挙げる心のなかで、生きてたことも

きみのくび切取線が描かれてた大丈夫だよわたしがまもる

完璧な死体と夏が誤解するほど僕たちは抱き合っていた

……穂村の解説も鋭い。ことば、音、漢字とかなのバランスへのこだわりなど、よき歌人であることはよき批評家でもあるのがよくわかる。短歌でわかったのはそこだけです。わたしは歌人にはなれそうもないなあ(実はわたしが即席につくった歌もひとつしのびこませてます。恥ずかしー)。

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