タイトルで少し損をしているかもしれない。いかにもお手軽な読み物っぽいので。
しかしこの書は、リベラルな家庭に生まれたひとりの女性が、映画界に飛び込み、その会社が日活だったものだから、小林旭の渡り鳥シリーズからロマンポルノにいたるまで、映画および映画界なるものを真の意味でスクリプト(記録)した名著でした。
だいたい、このタイトルにしてからが、神代辰巳の「濡れた欲情 特出し21人」の打ち上げのときに、撮影にいっしょうけんめい協力してくれたストリッパーたちといっしょに脱いでしまった(笑)ことを他のスクリプターたちにたしなめられたもの。白鳥さんの、現場に賭ける熱情が伝わるエピソードだ。
あ、スクリプターという職業自体があまり知られていないか。撮影現場で常に監督のそばにいて、セリフやカメラの動きなど、撮影におけるすべてを記録し、編集や音合わせの際に一貫性をもたせる重要な役目。
スクリプトがうまく機能しないと、編集の芸術である映画が成り立たない。お察しのようにこの職業はきわめて職人的技能を必要としている。逆にいえば、有能なスクリプターさえいれば、作品としてある程度成立してしまうのではないか。
白鳥あかねさんは、わたしの世代だと、宇能鴻一郎(「あたし~なんです」の作家ね)原作のほのぼのポルノを引き受けていた白鳥信一監督の奥さん。
ベッドシーンの演出が苦手だった監督にかわって、女優に艶技をつけたことから、殺陣師(タテ師)ならぬヨコ師と呼ばれた名物スクリプターだ。きつい撮影現場でも、職業柄さめた目で監督や役者を見つめ続けてきた。こんな人の自伝が面白くないわけがない。彼女のまわりにいた映画人たちはとにかくめちゃくちゃ。
・藤田敏八監督は喧嘩っ早いけれども弱い(笑)。
・「もどり川」撮影中にショーケンは15分ごとにクスリをきめていた。
・自殺した池田敏春監督の現場は地獄。テンションが高まると池田は歯止めがきかなくなる(さすが、山形県人です)
・「果てしなき欲望」撮影中に、今村昌平はどぶ川から吸い上げた水を渡辺美佐子にぶっかっけて失神させ……
そして、そんな映画人たちを、彼女が母親のように愛していることが伝わって感動。インタビュアーの高崎俊夫さんもプロの仕事をしている。
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