事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「四重奏 カルテット」 小林信彦著 幻戯書房

2014-04-29 | 本と雑誌

Rampoimg01 すでにして伝説と化している江戸川乱歩。わたしの世代は子ども時代に誰もが「少年探偵団」シリーズを読んでいたし、そこから「陰獣」「孤島の鬼」「人間椅子」などの淫靡な世界に迷い込む善男善女多数。いまでも江戸川コナン(笑)によってその名は輝き続けている。

角川書店によって横溝正史ブームが起こる前は、わたしのイメージでは明智小五郎の方が金田一耕助よりもずっとずっとメジャーな名前でした。

乱歩の実像はしかしなかなか複雑で、みずからの才能に誰よりも懐疑的であったり、食べるために書き続けた少年ものの人気が高いことに失望していたり、一種の諦念とともに生きた人でもあったようだ。

しかし彼の名声は「幻影城」などの評論や、数多くの推理小説作家を支援したことで、(今となっては信じられないことだが)徹底して文壇から無視されていた『探偵小説』→『推理小説』の地位を引き上げたことにもよる。

彼は経営が傾いた宝石社に私財をつぎこみ、雑誌「宝石」を支援する。その宝石の編集に「こうあるべきではないか」と手紙を送っていたのが小林信彦。彼は乱歩にスカウトされて宝石社に入り、伝説の「ヒッチコック・マガジン」を創刊する。「四重奏」はこの時期を描いた中編を四つならべたものだ。

宝石社には、旧弊な編集者が巣食い、派閥抗争も激しいため、小林は失望の連続。乱歩も経営への情熱を失い、しかしヒッチコックマガジンの売れ行きが伸びたことで小林はマスコミの寵児となっていく。

このあたりは名著「夢の砦」でも描かれた話。しかしそこから展開はいきなりダークになり、ある人物への憎悪があからさまになる。

この、ある人物というのが当時早川書房にいた常盤新平であるらしく、自分を支援するポーズをとりながら、ちゃっかり編集長の後釜におさまった彼について、もう数十年も前の話なのにいまなお怒りがおさまらない様子。小林らしいこだわりですかね。

日本のミステリ黎明期における、だからこそ極まった混乱。江戸川乱歩が、どのような形でこのトラブルにかかわったのか。どう感じていたのか。晩年の諦念がいっそう深かったであろうことだけは確かだ。

四重奏 カルテット 四重奏 カルテット
価格:¥ 2,160(税込)
発売日:2012-08-11

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