そうか、あさのあつこの弥勒シリーズももう八作目なんだ。第一作の刊行からもう12年が経っている。すべて紹介してきたけれども一応おさらい。
「弥勒の月」
「夜叉桜」
「木練柿」
「東雲の途」
「冬天の昴」
「地に巣くう」
「花を呑む」
そしてこの「雲の果(はたて)」だ。
物語は主に三人の男たちによって紡がれる。
・暗殺者として育てられ、いまは商人として成功している遠野屋清之介。
・狷介で皮肉な性格だが、ものごとを洞察する力量で圧倒する同心、木暮信次郎。
・ふたりの衝突にあきれながら、事件の闇を追う欲求がおさえきれない岡っ引きの伊佐治。
遠野屋は、自分の殺人衝動が信次郎によって見透かされていることに憤り、しかし完全に否定しきれない部分に悩む。
信次郎は悩まない。ある意味最強の性格だが、その加虐趣味に惹かれる女もいる。
どSとどMのコンビのことは、大人である伊佐治によって解説される。
とても魅力的なキャラがそろっているのだけれど、しかしあさのあつこは自分のつくりあげたキャラにのめりこみ過ぎてもいる。だからちょっと息苦しく感じられるときも。
しかしエラリー・クイーン好きを広言するだけあって、ミステリとしてもなかなか面白い。前作の「花を呑む」は、まさしくその花をめぐる謎だったが、今回は帯。うっすらと色がついた糸は、はたして何を象徴するかのお話。
まったく正体のつかめない被害者の帯と、遠野屋において清之介に最後まで心を許さなかった番頭が持っていた帯に、同じ糸が使われていた謎。なるほど。
ほとんどラスト近くになって魅力的なキャラが登場。花ではなく、木のような女。これ、女性作家が書いたんじゃなかったら非難囂々だったと思います。最後が駆け足になったのはちょっと惜しい。あさのさん、ここはもう一人殺すべきだった(笑)。
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