その93「教場0」はこちら。
中山七里って、とにかく書いて書いて書きまくっている。そして、常に一定のレベルをキープしているのだ。職業作家として、頼もしい。
彼の作品は、出版社の枠も超えて登場人物が少しずつリンクしているのも特徴。中山ワールドを形成しているわけ。
「作家刑事毒島」には“男の心は読めるが女性心理はさっぱり”な犬養刑事と、彼との関係がツンデレな高千穂明日香刑事も登場。「逃亡刑事」の方には「御子柴弁護士でも呼ぼうか」なんてセリフまで出てくる。ファンにはうれしい相関。
お話として、警察を辞めた(その理由が謎のひとつ)人間を(ましてベストセラー連発の性格の悪い作家を)捜査に参加させるなどありうるのだろうか。「逃亡刑事」の方は、成績優秀で強面の女性刑事が、それにしては罠に簡単にはまりすぎるのもしんどい。
しかし、中山七里はこれらの無理をテクニックでねじふせる。
作家が捜査に参加するのは、作家志望者・編集者・読書ブロガー(笑)など、文学まわりの人間たちがあまりに奇矯なので犬養たちの常識が通用しないからだし(だから犬養は先輩である毒島を敬遠している)、アマゾネスと呼ばれる女性刑事は、子連れで逃亡する(映画「グロリア」を明らかに意識している)うちに、警察の存在自体に疑問をいだき、同時に人間的に成長していく過程がきちんと描かれ、読者を納得させる。
中山はこれらの警察ものだけでなく、悪徳弁護士であり、殺人者でもあった御子柴シリーズや、音楽がテーマになっている岬洋介シリーズも同時進行。
毒島以上に、くえない人なのかもしれないなあと思ったりもする。だって毒島は幻冬舎の本なんだけど、幻冬舎らしいオチのつけ方まで周到。あそこは社員にむちゃさせてそうですもんね。
その95「ドラゴンスリーパー」につづく。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます