事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「ミス・サンシャイン」吉田修一著 文藝春秋

2022-12-15 | 本と雑誌

あの大傑作「国宝」で歌舞伎の世界の狂気を描いた吉田修一が、今度は映画界を舞台に、吉田の故郷である長崎の原爆をスタートにした戦後史を壮大に。

主役は伝説の映画女優、和楽京子。長崎出身の彼女は被爆し、しかし東京に出て女優となる。脇役が続いた彼女は「洲崎の闘牛」という映画で主演。いちやくスターとなり、ハリウッドにも進出する。そのときに彼女についたニックネームがミス・サンシャイン。

原爆を投下した国において陽光と呼ばれる屈託(実はもうひとつ理由がある)を抱えた彼女は帰国。順調にキャリアを重ねるが、映画界自体が次第に斜陽化していく。そして隠遁し、今は静かに暮らしている。

そんな彼女の家に、資料の整理のアルバイト、一心(いっしん)という大学院生が訪れるようになる。彼は壮絶な失恋を経て、すでに80代となっている京子、というより本名の鈴に次第に魅かれていく……

モデル探しがまず楽しい。

・アプレ女優としてデビューとくれば京マチ子

・被爆している設定は「夢千代日記」の吉永小百合

・テレビの不倫もので人気が復活とくれば「岸辺のアルバム」の八千草薫

・世間に背を向けて完全な隠遁とくれば、本人も登場する原節子

・洲崎とくればどうしたって新珠三千代の「洲崎パラダイス 赤信号」を想起

映画監督はだから川島雄三成瀬巳喜男的な人物が登場する。

実はこの小説には、もうひとり重要な女性が登場する。鈴の幼なじみ、佳乃子である。

鈴は彼女の方が美人だと信じているが、原爆症によって亡くなってしまう。そして、この小説のタイトルがいかに皮肉なものかを、読者は彼女によって最後に知ることになる。またしても、吉田は傑作を届けてくれました。


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