PART10「樅ノ木は残った」はこちら。
1971年の大河は「春の坂道」。柳生のお話。原作は山岡荘八、演出にはNHKのエースとなる深町幸男が参加している。
柳生、とくればどうしたって柳生十兵衛がメジャー。しかしこの大河は、十兵衛の父親、柳生但馬守宗矩(むねのり)を主人公にもってきた。
剣豪のお話だから、誰が強いのかという興味はある。その点、柳生家には柳生石舟斎、その子の宗矩、その子の十兵衛、いとこの柳生兵庫介と剣豪でいっぱいだ。演じたのはそれぞれ芥川比呂志、中村錦之助、原田芳雄、村野武範(彼はこの大河が終了した二ヶ月後に、真裏の日テレで「飛び出せ!青春」に主演した。主題歌はなつかしの青い三角定規)。
登場人物が宮本武蔵関係とかぶっている。わざわざ吉川英治を読み返さなくても、井上雄彦の「バガボンド」でおなじみの面々でいっぱい。
なにしろ沢庵和尚は宗矩のマブダチだから、宗矩と武蔵に接点がなかったようなのが不思議。まあ、彼ら剣豪をやみくもに勝負させたいと考える人は多いようで、だから「魔界転生」では武蔵(緒形拳)と十兵衛(千葉真一)、「柳生一族の陰謀」では宗矩(やはり中村錦之助)と十兵衛(やはり千葉真一)が激突する。
それはともかく「春の坂道」。
宗矩が他の剣豪と歴然と違っていたのは、政治的才能にめぐまれていたこと。そのことの是非はともかく、一介の剣士が(徳川家に気に入られて)大名にまでなってしまったのだ。しかもただ強いだけでなく、禅の考えを剣に持ちこんだことでも知られている。
中村錦之助はそのあたりで宗矩という存在に惚れ込み、柳生新陰流を会得までしている。だからこそ、十兵衛に新陰流の奥義を伝える場面には迫力があった。
「村雲。」
とつぶやいて剣を……すばらしかったなあ。彼はのちに、水鴎流(すいおうりゅう)の使い手として、柳生と死闘をくりかえすことになるのだが(子連れ狼)。
男くさい大河のなかで、田村高広が演じた沢庵は味があった。他に、徳川家康に山村聡、春日局に司葉子、石田三成に中村敦夫、徳川家光に市川海老蔵という布陣。宗矩の奥さんを演じた松本留美がキュートでした。
PART12「新・平家物語」につづく。
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