はじまりは9.11。数千人が亡くなったあのテロで、身も心も傷ついた刑事。ようやく復帰した彼は、ある殺人現場に向かう。なぜか刑事には、三十代にしてリタイアした、元諜報員ピルグリムが帯同していた。
スパイをスパイする“機関”において伝説の存在だったピルグリムは、その現場で激しく動揺する。それは、彼がリタイア後に著した“完全な犯罪”が忠実に再現されていたからだ……
んもう圧倒的に読ませます。1~3巻一気読み。主人公ピルグリムと、孤独なテロリスト<サラセン>の静かな追跡劇(どちらも、放浪者の意)。このスタイル、どこかで読んだような。そうだ、フレデリック・フォーサイスの「ジャッカルの日」だ。
しかしあちらがジャーナリスト出身のフォーサイスらしく淡々とした筆致だったのにくらべ、こちらは読者の胸ぐらをつかんで引き回し……そう、ジェフリー・ディーヴァーのタッチに近いかもしれない。ひっかけもちゃんと各章に用意してあるし。なにしろ作者のテリー・ヘイズは、あのマッド・マックスを書いた人なのだ。狂気を描くのはお手のものか。
メインのプロットはサラセンがアメリカに対して行うテロ。もしもこの犯罪が可能だとすれば、確かに自爆テロは時代遅れなものと成り果てる。
サラセン、ピルグリム、そして刑事の過去が挿入され、彼らの激突が不可避であるかのように描かれる。壮大なお話のなかに、クールなミステリ的展開が挿入されるので緊張が途切れない。たいした作品だ。
同時多発テロの際に、車椅子の男性を救うために尽力した人間もいれば、ある犯罪を思いつく人物もいる。皮肉なストーリーに泣かされもします。
今年は「ゴーストマン」といい、面白い犯罪小説が多くてしあわせ。背後にピルグリムが計画したテロがしのびよっているとすれば、そのしあわせは脆いのかもしれないけれど。