事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「丕緒(ひしょ)の鳥」 小野不由美著 新潮文庫

2013-11-25 | 本と雑誌

Bo9uncdcyaaowcj十二国記」シリーズ十二年ぶりの新刊。わたしはこのシリーズを講談社X文庫ホワイトハートから入り、講談社文庫、そしてどうやら刊行母体が移籍した新潮文庫でも読むことになった長っ尻の客。

異世界のルールをていねいに描くことがこのシリーズの魅力のひとつなので、短編集なのは残念、と思っていた。いやもう不明を恥じます。四編とも傑作。長篇は王と麒麟の物語がメインで、治世とはどうあるべきか、天意とは何かが語られることが多い。でも今作では、いずれも公務員の矜持が語られています。

「丕緒(ひしょ)の鳥」の主人公は、新王即位の際におこなわれる大射というイベントのプロデューサー的仕事を生業にしている。彼は王に自分の考えを伝えようと意気込むが、その気持ちは果たして伝わるのか……慶国の新王とくれば(はっきりとは描かれないが)ひさしぶりの陽子登場。ここで小野が描きたかったのは、芸術というものの可能性と限界か。旦那の綾辻行人とのミステリ観の違いまでうかがわせる。

「落照の獄」は死刑が是か非かを露骨に問うディベートドラマ。死刑に犯罪抑止力はあるのか、被害者家族の慰撫はどうなされるべきか、国の復讐代行でいいのか、死刑執行者は殺人者なのか……絶対悪のシリアルキラーに司法はどう立ち向かうか。結末は苦い。

「青条の蘭」はブナの木に発生した疫病から国を救おうとひた走る下級官吏のお話。こういう話をおれは教科書で読んだような……「走れメロス」だ(笑)。しかしこの作品では、主人公ひとりだけが走るのではないあたりで感動は深い。古典級の名作です。

「風信」の主人公蓮花は、すべての女を追放しようとした女王の犠牲者。身を寄せた園林ではたらく暦をつくる役人たちは、浮世離れしていて、外の世界に興味がないように見える。そのことで怒る蓮花だったが……モデルとなっているのは大学やミステリ研でしょうか。彼らがどう現実とコミットするのかが妙味。

……読書の楽しみとはこれか、と思い知らされる逸品。小野はここに来てますますレベルアップしている。読者の側も十二年分成長しているといいのだけれど。まもなく長篇の新作も上梓されるとか。あああそれまでは死ねない!

丕緒の鳥 十二国記 (新潮文庫) 丕緒の鳥 十二国記 (新潮文庫)
価格:¥ 620(税込)
発売日:2013-06-26
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