事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

あ・じゃ・ぱんPART2

2012-01-20 | ミステリ

1102825221_4

あ・じゃ・ぱん!(下) (角川文庫)
価格:¥ 900(税込)
発売日:2009-11-25

PART1はこちら

1973年 アメリカ、ハノイに原爆「サウンド・オブ・サイレンス」投下。

そして現在、東側のトップは中曽根康弘。西側は首都を大阪に、首相は代々、吉本創業家の人間が……という具合。

キャラクターと、その登場のさせ方は矢作俊彦の批評眼が炸裂している。

田中角栄は東側において反政府ゲリラを組織している。

・アーネスト・ヘミングウェイは日本に隠遁している。

・中曽根康弘の後継は渡辺美智雄(日光東照宮の宮司の次男として生まれた設定)が予定されていたが、こちらの世界でも……

・京都に落とすはずだった原爆投下予定地をルーズベルトに変更させたのはウォルト・ディズニー

・「ベン・ハー」に主演したのは現ロサンゼルス州知事になっているロナルド・レーガン。彼は赤狩り時代にチャールトン・ヘストンを共産主義者だと密告した(あのヘストンを!)。

・主人公を拉致する宗教法人の太守の名は祝(いわい)十郎→月光仮面です。

・クリル諸島(北方領土)はゴルバチョフによって“返還”されている。

・小林多喜二は「蟹工船」という勇壮な海洋小説を書いた。

・シゲオ・ナガシマは東日本からの難民の二世で(力道山とシャッフルしてある)、ジョー・ディマジオに野球の才能を見出されて“ブルックリン”ドジャースで活躍。のちにディマジオの妻だったマリリン・モンローと結婚する。

……ああもうきりがないな。こんな無数の有名人キャラの間を、名無しのCNN記者が徘徊し、ある殺人事件を追うことになる。かなり錯綜した意匠なので、中心となるミステリはある高名な作家の高名な作品をストレートに下敷きにしていて、それは最初の殺人現場で理解できるつくりになっている。

矢作俊彦がこの作品でめざしたのは、徹底した共産主義国家である東側と、拝金主義の西側を対比させることで、現実の日本へ皮肉をかますことだろう。それはもちろん成功しているのだが、と同時に例によってワイズクラックの嵐とマニアックなネタがやはりすばらしいのだ。これは以下次号

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする