講談社100周年記念出版第一弾。
「MISSING」「ALONE TOGETHER」「MOMENT」以降、不調をきわめていた本多の復活がまずはめでたい。死を望み、猶予として一年間を生き続ける女性と、そんな彼女の生を追う雑誌記者(この時点でちょっとひねってあるのだが)。ミステリとしてはもちろんだが、自殺に向かう人間の心理をとにかく丁寧に描いていてうまい。作品のキーとなる人物(ネタバレになっちゃうかなあ)が絶望のことを「贅沢なフィクション」と表現するあたりも実は伏線になっている。娘の死によって、遺された家族がどう衰弱していくかはリアルです。わたしが言うんですからまちがいありません。
「私も、たとえば高校時代の自分は嫌いじゃないが、高校時代の自分が今の私を見たら、間違いなく殴りかかってくるだろうね。どうしてそんな薄汚れた大人になったんだって」
「それに対して、どう答えるんです?」
「どうも答えやしないよ」
と俺は言った。
「殴りかかられたら黙って殴られて、それから黙って殴り返すだけだ」
……セリフのうまさも本多らしい。長らく寄り道をしてきた彼だけど、ミステリ色を強めることでこれだけの作品が完成するのだから、推理小説作家として突っ走ってほしい。叙述トリックも今回はいい感じだぞ。がんばれ本多。はたらけ本多。