事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「死者との誓い」R.ブロック著 PART4

2008-08-27 | ミステリ

203 PART3はこちら

~最終回はネタバレ必至です。よろしく~

「死者との誓い」が他のスカダーシリーズとくらべて(世評高い「八百万の死にざま」よりも)すばらしいのは、スカダーの昔の恋人の存在だ。死病にとりつかれた彼女は、みずからの“選択肢”を確保するために、拳銃をスカダーにリクエストする。スカダーは悩みつつも彼女に手渡す(調達の仕方もなかなかひねってある)。

 しかし終章で彼女がどんな“選択”をしたかが語られ、読者を感動させる。ネタバレ覚悟で彼女の決意を紹介しよう。彼女も、元アル中なのだ。

「あなたが帰ったあと、わたしは鏡を見たのよ。わたしには自分のみすぼらしさが信じられなかった。でも、こう思ったの。だからなんなの?って。自分のみすぼらしさとだってわたしは一緒に生きていける。そう思ったら、どんなこととでも生きていけるって思えたの。それと一緒に生きていかなければならないのなら、自分はそれに対して何もできないかもしれないけれど、一緒に生きていくことはできる。それに耐えることはできるってそう思えたのよ。
 自分にはどうすることもできないものがある。痛みとか容貌とか。それに、そう、自分は今のこの状態から生きては抜け出せないという受け容れがたい事実とかね。それに対して銃というのは、自分でどうにかできるものよ。現在の状況に我慢できなくなったら、ただ引き金を引けばいい。でも、どうにかしなきゃいけないなんて誰が言ったの?
ふと気がつくと、わたしはこういうことを理解してた。それは、わたしはどんなものも失いたくないということよ。だってそれが素面でいることの一番の目的じゃない?自分の人生を失うことはもうやめようというのが、素面でいることの一番の目的じゃないの。だから今もわたしはそうありたいと思った。死もまた人生におけるひとつの体験よ。その体験をわたしは逃したくない。昔は、死は突然訪れてくれればいいと思ってた。脳卒中とか心臓発作とか、一番いいのは、何が起こっているのかわからないまま眠っているあいだに死ぬことだって思ってた。でも、今はちがう。そんなことは少しも望まない。ゆっくりとネジがほどけるように死んでいきたい。」

……どんなことであっても、それを受け容れる決意。これはアルコール依存症患者が断酒にのぞむ決意とも相似形をなしている。「死者との誓い」がミステリとして上等なのはもちろんだけれど(それだけでももちろんすばらしいことだが)、一種の都市小説として、一種の救いの小説として光り輝いているのは、この終章のすばらしさによる。10年に一作出るか出ないかの傑作。ぜひ一読を。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「死者との誓い」R.ブロック... | トップ | 「バブルへGo!!」(’07 ホ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ミステリ」カテゴリの最新記事