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 陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

フィリップ・K・ディック「お父さんのようなもの」

2009-10-24 23:01:22 | 翻訳
今日からフィリップ・K・ディックの短篇 The Father-Thing" の翻訳をやっていきます。
一週間ぐらいの予定です。
原文は

http://www.wowio.com/viewer/reader.asp?nBookId=64&rnd=637.8786799485713

で読むことができます。
今日はすごくちょっとだけです(笑)。

* * *

お父さんのようなもの

by フィリップ・K・ディック


その1.

「夕ご飯の支度ができたわよ。パパのところへ行って、手を洗ってきて、って伝えて」とミセス・ウォルトンは息子に頼んだ。「あなたもよ、坊や」そう言いながら、湯気の立つキャセロールを、きちんと整えられた食卓に運んだ。「パパはガレージにいるでしょ」

 チャールズはなかなか動こうとしない。わずか八歳にして、古代ユダヤ教の指導者、ラビ・ヒルレルすらも頭を悩ませそうな難問を抱えていたのである。「ぼく……」とためらいがちに口を開いた。

「どうかした?」ジューン・ウォルトンは息子の声にふだんとちがう響きを聞き取った。はっと身を起こしたせいで、豊かな胸が揺れる。「パパはガレージにいるんでしょ? 少し前、植木ばさみを研いでたから。アンダースンさんのところにでも行った? そんなわけないわよね、すぐに用意はできるって言っておいたんだから」

「パパはガレージにいる」チャールズが言った。「だけど――自分としゃべってる」

「ひとりごとなんて言ってるの?!」ミセス・ウォルトンは明るい色のビニールエプロンを外して、ドアのノブにかけた。「テッドがひとりごと? 変ね、あの人はそんなことをする人じゃないのに。とにかく行って、呼んできてちょうだい」熱いブラック・コーヒーを小さな青と白の陶器のカップに注ぎ、コーンのクリーム煮をお玉でよそった。「どうしたの? パパのところへ行ってきて」

「どっちに言えばいいのかわかんない」チャールズはどうしようもなくなって、うっかり口をすべらせた。「そっくりなんだもの」

鍋をつかんでいたジューン・ウォルトンの手がすべって、危うくコーンのクリーム煮をぶちまけそうになった。「坊やったら――」怒ろうとしたところにテッド・ウォルトンが大股でキッチンに入ってきた。鼻をくんくんいわせながら、両手をこすりあわせている。

「これはこれは」うれしそうな声を出した。「ラム・シチューだな」


(この項つづく)


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