陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

リング・ラードナー 「散髪」その1.

2006-07-26 22:05:42 | 翻訳
今日からリング・ラードナーの短編「散髪」をお送りします。原文は

http://www.classicshorts.com/stories/haircut.html
で読むことができます。

* * *
「散髪」

by リング・ラードナー



 ウチにはもうひとり、土曜日になるとカーターヴィルからやってきて、あたしを手伝ってくれる理髪師がいるんですが、ほかの日だったらそこそこひとりでやってけるんですよ。見ての通り、ここはニューヨークなんかじゃありませんし、おまけにたいがいの若い衆は、いちんちじゅう働いてますから、ちょっくらここに寄ってめかしこもうなんて暇もないんです。

 お客さん、新しくいらした方でしょ? いままでここいらじゃお会いしたことありませんでしたもんね。腰を落ちつけたくなるぐらい、ここが気に入ってくださりゃ、あたしもうれしいんですがね。さっきも言ったみたいに、ここはニューヨークやシカゴみたいなとこじゃない、だけど、あたしらみんな、楽しくやってます。ま、ジム・ケンドールが殺されちまってから、っていうもの、前みたいなわけにゃいきませんがね。やつが生きてたときは、あいつとホッド・マイヤーズのおかげで、街中みんな大騒ぎしたもんです。アメリカ広しといえど、ここぐらいの規模の街で、ここほどみんながよく笑ったところはどこにもありませんって。

 ジムは可笑しなやつでした。ホッドがまたジムにお似合いのやつでね。ジムが死んじまってから、ホッドも前とおんなじようなことをやろうとしても、一緒にやってくれる相方がいないところじゃ、なかなかきびしいみたいです。

 昔は土曜日っていうと、ここはいつだってとびきり楽しい場所になってました。土曜日、だいたい四時ぐらいから先、ここはぎゅうぎゅう満員になるんです。ジムとホッドは晩飯をすませるやが早いか、すぐに顔を出しにくる。ジムはいつもあそこの大きな椅子、青い痰壺のすぐそばに座ってました。だれがそこに座っていようと、ジムが顔をのぞかせたら、すぐに立って、場所を譲ることになってたんです。

 劇場なんかにときどきある指定席みたいなものだと考えてくれたら結構です。ホッドはたいてい立ってるか、うろうろしてるか、もちろん椅子に座って、髪を切ってもらってることもありました。

(この項つづく)


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