五月十九日
とうとう起こってしまった! ひたすらあの方を避けていたがために、かえって最悪の事態を引き寄せてしまった――告白を。
菜園の隅に生えているセンノウを採りに、菜園に入ったときだった。わたしが足を踏み入れるか、入れないかのときに、外から足音が聞こえてきたのだ。木戸が開いて、閉まる音がして、振り返ると菜園のなかにあの方が立っていらっしゃった。菜園は四方が壁にかこまれていて、庭師も不在で、その場所はまったく人目に触れないところだった。あの方はアスパラガスの苗床のあぜ道を通って、わたしに追いついたのだ。
「どうしてぼくがここまで来たか、おわかりですね、アリシアさん」とふるえる声でおっしゃった。
わたしは何も言えなくなって、頭を垂れた。あの方の声を聞くだけで、何をおっしゃろうとしているのかわかったからだ。
「そうです」とあの方は言葉を続けた。「ぼくが愛しているのは、あなただ。妹さんへの気持ちが一種の愛情であることはちがいないんですが、それはかばってやりたいという気持ち、保護者のような気持ちであって、それを超えるものではないんです。あなたに何と言われようと、その気持ちはどうすることもできない。自分の気持ちを誤解してしまったのは事実だし、自分の本当の気持ちを知らずにいた責めは、負うつもりでいます。自分の本心に気づいてから、夜も昼もそれと闘ってきたんだ。でも、もう隠すことはできないんです。いったいどうしてあなたにお会いしてしまったのか。結婚することに決めるまで、お会いすることもできずにいたのに。ぼくがここに来た日、あなたをお見かけした瞬間、ぼくはこう思ったんです。『男に生まれたぼくが待っていたのは、この人なんだ』と。それ以来、言葉に出来ないあなたの魅力がぼくの心を捕らえてしまったんです。ひとことでいいんです、返事を聞かせてください!」
「ああ、ド・ラ・フェストさん!」叫び声が口から漏れた。そこから先、自分が何を言ったか記憶にないのだが、わたしはさぞかし惨めな表情を浮かべていたのだろう。あの方はこうおっしゃった。「どうにかして、妹さんにこのことを知らせなければなりませんね。おそらく妹さんの愛情を、ぼくの側も誤解しているはずだ。いずれにせよ、すべてはあなたのお心にかかっているんです」
「自分でも、自分の気持ちがわからないんです」とわたしは答えた。「ただ、ひどい裏切りのように思えるだけです。あなたとここにこうしていることが、事態をいっそう悪くしているんです……。どうかあの子に誠実になってやってください――あの子は優しい子ですし、それに、あの子があなたに寄せる愛は、まちがいなく、心からのものです。おっしゃる通りならどれほど良かったか! こんなこと、もしあの子が知ったら、死んでしまいます」
あの方は深いため息をおつきになった。「妹さんは、ぼくの妻になるべきではありません。ぼくの幸せは別にしても、ぼくなんかと結婚してはいけないんです」
あなたの口からそんなお言葉をうかがいたくありません、とわたしは言って、どうかお行きになって、と涙を流して頼んだ。あの方はわたしの言うとおりにしてくださった。出て行かれて、木戸の閉まる音がした。告白の結果はどうなるのだろう。そうして、キャロラインの運命は?
五月二十日
きのうはずいぶん長々と書いてしまったが、それでもあれがすべてではないのだ。ほんとうは、わたしは心の底から願っていた。信念にさからって、自分のはっきりした判断に逆らって。ここに本心を明らかにするのはつらいことだけれど、この痛みも書き記すことによって和らぐ。
そう、わたしはあの方を愛している――ひどい話だが、もうこれ以上そこから逃げたり、眼を背けたり、否定したりはできない。世界中のだれにも開かすことができないことだが。わたしはキャロラインのいいなづけを愛しているし、彼もまたわたしを愛してくださっている。それは昨日だけの熱情ではない。わたしたちの結びつきの内に培われたものなのだ。一目お会いしたその瞬間から。昨日お話したせいで、いささかそれはそがれてしまったけれど、とうてい鎮めるようなものではなかった。
神様、どうかわたしのこの恐ろしい裏切りをお許しください。
(この項つづく)
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