陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

フィリップ・K・ディック『変種第二号』その7.

2009-04-06 22:45:21 | 翻訳
その7.

「男の子。デイヴィッドだったな。ぬいぐるみのクマを抱いたデイヴィッド。変種第三号だ。いちばん効果的なやつだ」

「ほかのタイプはどんなやつだ」

エプスタインは上着に手を入れた。「ほれ」袋に入れて紐でくくってある写真の束を、テーブルに放った。「自分で見たらいい」

ヘンドリックスは紐をほどいた。”

「おれたちが話したかったのは」ルディ・マクサーが言った。「このことだ。おれたち、っていうのは、ロシア軍が、ってことだがな。一週間ほど前にわかったんだ。あんた方のクローが、クローだけで新しいデザインのものを作りだしたってことが。自分で自分の新型を作ったんだ。いままでのものより強力だ。こっちの前線の後方の、あんたらの地下工場で作っている。あいつらに自分たちの型抜きも、修理も任せていただろう。だからあいつらはどんどん精巧になっていったんだ。こんなことが起こったのも、あんたたちの責任だぞ」

ヘンドリックスはしげしげと見た。慌てて撮ったらしいスナップだ。ピンぼけではっきりしない。最初の数枚にはデイヴィッドが写っていた。ひとりきり、道を歩いているデイヴィッド。デイヴィッドともうひとりのデイヴィッド。三人のデイヴィッド。どれもまったくそっくりだ。それぞれ、ぼろぼろのクマを抱いている。

どれも痛々しい。

「ほかのも見て」タッソーが言った。

つぎの写真はかなり遠くから撮ったもので、背がひどく高い兵士が、道ばたに腰を下ろしている。片腕を吊り、切断された片脚を投げ出し、膝には切っただけの松葉杖を載せている。つぎにもふたりの傷痍兵が、そっくり同じふたりの男が並んで立っている。

「それが変種第一号だ。傷痍兵型だ」クラウスは手を延ばして写真を手に取った。「な、クローは人間そっくりに設計されているんだ。人間を見つけるために。新しいのができるたびに、前のより精巧になっている。やつらはどんどんやってきて、わが軍の防衛線の奥深くに入り込んで来ている。だがな、あいつらが単なる機械であるかぎり、かぎ爪や角や触手を持った金属の球であるかぎり、ほかの標的と一緒で、狙い撃ちすることもできる。見かけでもしたら、すぐにロボット兵器だと気がつく。ひとたびやつらを見つけでもすればな」

「変種第一号は、わが軍の北翼を壊滅させた」ルディは言った。「人がつかまっても、長いこと誰も気がつかなかった。気がついたときは手遅れだった。やつら、つまり、傷痍兵がノックして、入れてくれ、と頼んだ。だから入れてやったんだ。入ってしまえばあいつらのもんだった。機械には目を光らせていたんだが……」

「当時はあれがただひとつの型だと考えられていた」クラウス・エプスタインが言った。「だれも、ほかにもあんなタイプがいるなんて考えていなかった。この写真がこっちに回ってきた。わが軍が伝達係りを送ったときには、わかっているのはたった一体だけだったんだ。変種第一号、あの大男の傷痍兵だ。あれだけだと思っていたんだ」

「君たちの戦線が陥落したのは……」

「変種第三号のせいさ。デイヴィッドとクマだ。あれはさらに威力があった」クラウスは苦々しげに笑った。「兵士ってのは子供には弱いんだ。やつらを中に入れて食い物をやろうとした。じき、やつらのねらいは何だったか、思い知らされることになったがな。少なくとも、あの掩蔽壕にいた連中は」

(この項つづく)




最新の画像もっと見る

コメントを投稿