十月一日
どう考えても父の考え方はおかしい。キャロラインの心は傷ついているのだし、正式な結婚式はシャルルさんが絶対にするつもりはないとおっしゃっておられるのだから、どうしてこの方法が間違っていると言えるのだろう。仮に、シャルルさんが結婚を承諾してくださったとしても、結婚特別許可証を入手することが現実的に困難なのだから。
キャロラインの執着が、絶望的な病状を引き起こしていることを、お父さんはご存じない。あるいは、認めようとされないのか。だが、現実はその通りなのだし、形式的な式を挙げるだけで、たとえようもないほど幸せになれることが、わたしにはわかる。というのも、ためしにあの子の耳元でそっと結婚のことをささやいたとたん、目に見えるほどの効果を及ぼしたのだから。こうなると、キャロラインの問題に関して父を頼りにすることはできないということだ。あの子をわかっていないのだから。
(正午)
父が今日は留守をしているのをこれ幸いとばかり、若いけれど思慮深い方に、わたしの秘密の考えを打ち明けた。その方は午前中に父を訪ねていらっしゃったのだ。その方はテオフィルス・ハイアムさんといって、わたしもこれまでにも何度かお話ししたことのある、隣町で聖書の読み聞かせをなさっておられる方だ。近い内に牧師に任命されることになっている。わたしはその方に、この哀れな事態と、わたしの救済策をお話しした。ハイアムさんは、お手伝いしますよ、あなたのためなら何だってします、と熱心に言ってくださった(実はハイアムさんはわたしに憧れている)。思いやりからなされる行為が何の悪いことがあろう、と考えておられるのだ。今日の午後、父が帰ってくる前に、ハイアムさんはもう一度この家にいらっしゃって、一緒に計画を実行に移すことになった。シャルルさんにも話したし、それに備えると約束してくださった。これからキャロラインにこの知らせを伝えるのだ。
午後十一時
あまりに興奮しすぎて、いままで腰を落ち着けて、顛末を書くこともできずにいた。
わたしたちは計画を遂行した。罪悪感めいたものは感じてはいるが、満足している。父にはもちろんまだ何も知らせるわけにはいかない。キャロラインはあれからこちらずっと、やつれて透き通った顔に、天使のように清らかな表情を浮かべている。これから先、あの子が一命を取りとめて、ふたりのあいだが合法的なものになる必要があったとしても、驚くにはあたらないだろう。そうなれば父にもこのいきさつを打ち明けることができるし、これほどうまくいったのだから、よもや認めないこともあるまい。その一方、お気の毒なシャルルさんは、キャロラインの代わりに、この取るに足りないわたしをもらう可能性は残していらっしゃる。もしあの子が……。けれど、わたしにはそのもうひとつの可能性を考えることはできないし、書くこともできない。
シャルルさんは式を終えると、そそくさと南ヨーロッパへお発ちになった。最初は神経が張りつめ、興奮し、ほとんど常軌を逸したといってもいいぐらいだったのだが、わたしがなんとかなだめた結果、徐々に気持ちも落ち着かれたようだった。そのため、わたしはお別れのキスを受けるという罰を受けなければならなかったが、その意味を考えると、後悔している。ただ、ほんとうに不意打ちだったのだ。一瞬ののちには、もうそこにはいらっしゃらなかった。
十月六日
あの子は確実に快方に向かっている。シャルルさんがどうしても急に出立しなければならないことになった、と伝えても、ごく機嫌良く聞き届けた。お医者様は、回復も表面的なものかもしれないとおっしゃる。けれど、わたしには、自分が式を挙げたことを、お父様にも、外のだれにも秘密にしておかなければならない、という思いが、生きる情熱を取りもどす助けになったのかもしれない。
十月八日
あの子はどんどん良くなっていく。もし、ほんとうに回復できるのなら、あの子を助けることができてうれしい。たったひとりの妹だもの。たとえわたしが、もはやシャルルさんの妻になれなかったとしても。
(この項つづく)