午後八時(四月十五日のつづき)
そう、わたしの思った通りだった。あの子はシャルルさんと一緒になろうとして、ここを出たのだ。明け方にバドマウス・リージスで投函されたあの子の手紙が、午後になって届いた――運良く召使いのひとりが、今日、町へ出たついでに、手紙がきていないかどうか確かめてくれたおかげだ。そうでなければ、届くのは明日になっていただろう。
あの子は、シャルルさんのもとへ行く、という決意と、誰にも告げずに出てきたのは止められたくなかったからだ、ということが述べてあるだけで、どのルートで行くかということは、ひとことも触れられていない。あんなに穏やかな子が、平然と大胆不敵なことをするなんて、まったく驚くほかはない。ああ、シャルルさんはもうヴェニスにはいらっしゃらないのかもしれないのに。あの子が何週間探したって、見つけることはできないかもしれない。それどころか永遠に。
父は、手紙を読むと、わたしにいますぐ準備にかかり、九時に出立できるように、と言いつけた。夜間蒸気船に連絡している汽車に乗れるよう、馬車で出かけるのだ。したくはできた。だが、まだ一時間ほど余裕がある。出発を待つ、宙づりにされた気持ちをまぎらわせるために、ペンを取ることにした。父は、かならずあの子をつかまえなくては、と言っていて、シャルルさんに対してひどく立腹しているようだ。もちろんあの子のことも、恋人に会うために向こう見ずなことをする、はしたない娘だという。この情けないわたしが、いったいどうして父に言うことができるだろう。あの子はそんな子じゃありません、ずっとすばらしい子なんです――ただ、シャルルさんの下へ愛するあまりに飛んでいったのは、恋をしている者の衝動的な行為にしてはあまりに危険だ、そんなことをしてしまったのは、いささか考えが足りなかった……などと。
わたしたちはパリ経由で行く予定だ。おそらくそこで妹に追いつけるだろう。父がいらだたしげに玄関ホールを行ったり来たりしている足音が聞こえる。もう行かなくては。
第八章 追跡行
四月十六日
夜、パリの__ホテルにて。
ここであの子に追いつくことはできなかった。だが、ここに泊まっていたはずだ。パリのほかのホテルなど、あの子は知らないのだから。明朝、ここを出発する。
(この項つづく)