陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

トマス・ハーディ「アリシアの日記」その14.

2010-06-11 21:56:11 | 翻訳


九月三十日

 もう一度、あの方を説得してみた。すると、考えてみる、とおっしゃる。もはや気取ったことを言っていられるような場合ではない、わたしはここぞとばかり、押すことにした。妹が亡くなって一年たった暁には、あなたの妻になることを誓います、と申し出たのだ。


(数時間後)

 話し合いのせいで、すっかり心が乱されてしまっている。あの方は、どのような条件であれ、わたしからの結婚の申し出なら喜んで受ける、とおっしゃる。その上で、今後、三通りの事態が起こりうる、それにともなってわたしたちの打つべき手だては、以下に記すものである、と。

第一に、かわいそうなキャロラインが亡くなった場合は、一年の服喪期間が開けてから、わたしはあの方と結婚する。

第二は、可能性は低いが、もしキャロラインが全快した暁には、わたしが責任持って、キャロラインに説明をおこなう。シャルルさんと一緒に挙げた式が、ほんとうはどういう性格のものだったか。とにかくあなたの気持ちを満足させるために、わたしが提案したもので、英国国教会の結婚特別許可証も下りておらず、教会での正式な結婚式はまだ挙げていないのだ、と。

第三には、これはほとんど考えられないのだが、あの子の熱が冷めてしまい、式をもう一度挙げるのをいやがった場合である。そのときはわたしはイギリスを去り、あの方と国外で落ち合って、そこで結婚式を挙げる。キャロラインが誰か別の人と結婚するか、シャルルさんに寄せる思いを過去のものとすることができるまで、イギリスには帰らない。

わたしは考えに考えて、この三つの手だてをすべてそのまま受け入れることにした。


(午後十一時)

 どう考えてもこの計画は良いものには思えない。それに今夜、寝室に戻る前に、父にこれを打診してみたのだ。わたしはばくぜんと、父はこの計画に反対はしないのではないかと思っていた。ところが父は、どんなことがあっても、そんな現実味のない計画を進めてはならない、と言う。仮に、善意からであっても、死の床にあるかわいそうな妹のためであっても、そういうことをしてはならない、と。わたしは重い気持ちで床に就いた。


(この項続く)