陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

フランク・オコナー「天才」その1

2009-05-08 23:19:24 | 翻訳
今日から一週間ほどをめどに、フランク・オコナーの短篇「天才」の翻訳をやっていきます。この短篇は、amazon の中身検索で読むことができるので(笑)、興味のある方は、"Frank O'Connor, The Geinus"で検索してみてください。

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The Genius(天才)

by Frank O'Connor(フランク・オコナー)


 男の子のなかには生まれついての意気地なしもいるが、ぼくが男らしさと手を切ったのは、信念があったからだ。母から天才と呼ばれる人びとのことを聞いて、自分もその一翼に連なるつもりだったし、ケンカは罪深いばかりか、わが身を危険にさらす行為であることを、この目で確かめていた。ぼくたちが暮らす軍の家族住宅のあたりの子供たちは、ケンカに明け暮れている。母は、あの子たちは乱暴者だし、あんたにはもっとふさわしい友だちが必要ね、大きくなって学校にあがったら、きっとそんな友だちが見つかるわ、と言うのだった。

 ケンカをふっかけられて逃げられなくなったときのぼくの手は、すぐ近くの塀によじのぼって、天にまします我らが神のことや、礼儀のあれこれを大声でまくしたてるというものだった。大人の注意を引くためにそんなことをしたのだが、たいていはそれだけでうまくいった。敵どもは、こいつはいったい何を言ってるんだ? と、しばらく穴の空くほどぼくを見上げ、人が集まってくる前に引きずりおろして頭をぶん殴ってやる暇があるだろうか、と考えたあげく、「弱虫やあい」とわめきながら、腹立たしげにどこかへ行ってしまう。ぼくからすれば、ケンカすることを思えば、弱虫と呼ばれることなど何でもなかった。近所には貧しい混血の子供たちも住んでいたのだが、その子たちは、はばかるようにあたりをそっと行き来し、人の姿を見かけるといつも一目散に逃げ出した。でもぼくは、なんとかその子たちと親しくなれないかとずっと思っていたのだった。

 ぼくだって遊んだし、ボールを穏やかに蹴りながら歩道を走るのは楽しかったが、それもほかの子が現れるまでのこと。誰かが来ると、たちまち遊びは荒っぽくなり、肩をぐいぐい押しつけられて、道に押し出されそうになる。女の子たちの方がまだましだったが、それも女の子がやたらとケンカをしない、その一点につきた。それ以外の面では、ただただ退屈で、ごく基本的な知識すら、まるで持ち合わせていないのだった。



(この項つづく)