「雪の中のハンター」
今日からしばらくトバイアス・ウルフの短編「雪の中のハンター」の翻訳をやっていきます。
原文はhttp://www.classicshorts.com/stories/huntsnow.htmlで読むことができます。
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降り続く雪のなか、タブは一時間も待っていた。暖を取ろうと歩道を行ったり来たりしながら、ヘッドライトが近づくたびに、頭をつきだした。車が一台止まったが、タブが手を振ろうとする前に、背中のライフルに気がついて、排気ガスを浴びせて走り去った。凍った道でタイヤがスピンする。雪はいっそう激しくなった。タブは建物のひさしの下に立った。道の向こうには、白々とした雲が屋根のすぐ上までたれ込めていた。タブはライフルを、もう一方の肩にかけかえた。雪の白さが空一面をおおっている。
トラックが一台、スライドしながら角を曲がり、警笛をならして後部を横滑りさせた。タブは歩道まで出て、手を挙げた。トラックは縁石にのりあげてはねあがり、片側を歩道に乗せたまま近づいてくる。スピードを緩めることさえしない。片手をあげたまま立ちつくしたタブは、つぎの瞬間、後ろへ飛びすさった。ライフルが肩からすべりおちて凍った歩道の上で音を立て、サンドウィッチがポケットから飛び出した。タブは建物の階段まで逃げる。もうひとつのサンドウィッチとクッキーの包みが、積もったばかりの雪の上に散らばった。階段にあがって、振り返った。
トラックはタブがさっきまで立っていた位置から、ほんの数メートルのところで止まっていた。サンドウィッチとクッキーを拾い上げ、ライフルを肩にかけると、運転席の窓のところへ近寄っていった。運転していた男は、ハンドルにもたれかかって、膝をぴしゃぴしゃたたきながら、足を踏みならしている。アニメの登場人物のような仕草で大笑いしながら、これだけはアニメらしくない目つきで、隣に座っている男を見た。「いまの見たか? 帽子をかぶったビーチボールってとこだったぜ、だろ? フランク」
隣の男は笑みは浮かべていたが、あらぬほうを見たままだった。
「もうちょっとでひかれるところだったんだぞ。おまえに殺されかけたんだ」
「おいおい、タブ」運転手の隣の男がいった。「そうカリカリするなよ。ケニーがちょっとふざけただけじゃないか」そういって、ドアをあけると、自分は身体を座席の真ん中にずらした。
タブはライフルの遊底を抜いて、その隣によじのぼった。「一時間も待ってたんだ。十時に来るつもりなら、なんでそう言わなかった?」
「タブ、おれたちがここに来てから、おまえはずっと文句ばっかり言ってるじゃないか」真ん中の男はいった。「一日中腹を立ててブツブツ言っていたいんだったら、家へ帰って、おまえんとこのガキ相手にやってくれ。好きなように」タブが答えないので、今度は運転手に向かっていった。「よし、ケニー、行こうぜ」
どこかの悪ガキが運転席側のフロントガラスに煉瓦をぶつけたので、冷気と雪がその穴からまともに吹きつける。ヒーターはかからない。みんなケニーが持ってきた毛布を何枚も身体に巻きつけ、帽子の耳当てを下におろした。タブが手を暖めようと毛布の下でこすりあわせるのを、フランクがやめさせた。
トラックはスポーケンを出て、黒い線となってつづく柵に沿って、人里離れた場所に進んでいく。雪は止んだが、依然として空と大地の境界は、判然としないままだ。雪原に動く影はない。冷気のために、だれの顔も血の気が失せ、ほほから上唇にそって無精ひげが浮き上がって見えた。二度休憩をとって、コーヒーを飲みに行き、そうしてやっとケニーが、ここで狩りをしよう、といった森についた。
タブはちがう場所にしたがった。二年つづけてこの場所をあちこち移動してはみたものの、獲物一匹、見つけることはできなかったからである。フランクは、ただあのおんぼろトラックから降りることができさえすれば、どちらでもよさそうだった。「感じろよ」そういうとドアをバタンと閉めた。脚を開いて目を閉じ、背中を反らして深呼吸する。「生き物の気配を嗅ぎつけるんだ」
「もうひとつ」とケニーがいった。「ここは許可区域なんだ。あたりのほとんどは禁猟区域だからな」
(この項つづく)