トリエンナーレ再開表明直後の不交付決定 「筋が違う」「新しい検閲」 (2019年9月27日 中日新聞)

2019-09-27 08:22:35 | 桜ヶ丘9条の会
トリエンナーレ再開表明直後の不交付 「筋が違う」「新しい検閲」 
2019/9/27 朝刊
 国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」を巡る問題は、国が二十六日に補助金を交付しないと決定したことで、国と県の法廷闘争に広がる可能性が出てきた。運営面での懸念を報告していなかったことを国が問題視する一方、県側は「合理的な理由がない」と反発。出展作家や芸術祭の来場者からも国の決定に疑問が相次いだ。
 「手順、手続きに従ってやってきた。報告しなかったからというだけで採択決定が覆る合理的理由はない」。二十六日夕、記者団の取材に答えた愛知県の大村秀章知事は、国の決定に憤りを隠さなかった。
 萩生田光一文部科学相は取材に「県側は四月の段階で会場が混乱するのではないか、展示を続けることが不可能なんじゃないかと警察当局と相談していたらしいが、文化庁にはきていなかった」と、手続きの不備を指摘。展示内容が理由ではなく「検閲には当たらない」との見解を示した。
 ただ、県の検証委員会がまとめた中間報告によると、県が警備体制の検討を始めたのは補助事業として採択が決まった後の五月。県の担当者は「われわれとしては、円滑な運営に影響がないようにと対応していたのだが」と困惑する。
 県が国に具体的な展示内容などを伝えたのは、企画展中止が決まった翌日の八月四日。国側は、運営が危ぶまれた場合には報告が必要との見解を示したが、県の担当幹部は「説明が必要という認識はなかった」と話す。展示内容も申請には必要とされておらず、提出書類に運営上の懸念を申告する欄もないという。
 展示再開を目指すと表明した翌日の不交付決定に、大村知事は「関連性があるとしか思えない。表現の自由を高らかに掲げて、裁判に臨みたい」と強調した。
 中止になった企画展に関し、県が設置した検証委員会(座長・山梨俊夫国立国際美術館長)は二十五日、「条件が整い次第、すみやかに再開すべきだ」とする中間報告をまとめた。検証委は条件として、脅迫や電話による集中攻撃へのリスク回避策の構築、展示方法などの改善、会員制交流サイト(SNS)による拡散防止を挙げていた。
 不自由展を巡っては、大村知事が再開に向け協議を始める考えを示したばかり。その直後の発表に、名古屋大の栗田秀法教授(美術史、博物館学)は「再開へのけん制と受け止める人も多いのでは。脅迫で妨げられた芸術祭の側に責任を問い、補助金を出さないのは筋が違う」と批判する。
 国や地方自治体が芸術活動に公金を出す根拠となる文化芸術基本法の基本理念には「文化芸術活動を行う者の自主性が十分に尊重されなければならない」とある。志田陽子・武蔵野美術大教授(憲法学)は「交付中止決定は、この法で定めた理念に明らかに違反する」と指摘する。
 文化庁は「補助金適正化法違反」を中止の理由にしたが、志田教授は「文化庁が重んじるべきは基本法の理念」と反論する。
 あいちトリエンナーレの出品作家の一人、田中功起さん(43)は、今回の措置を「新しい検閲」と受け止めた。過去に、文化庁の芸術家支援制度で海外研修した。「文化庁は今までさまざまな表現を受け入れ、ぼくもそのサポートによって活動を広げてきた」とした上で、今後、制度や事業の中身が大きく変わるのではないかと危ぶむ。

◆菅氏が政権意向否定

 菅義偉官房長官は二十六日の記者会見で、文化庁による補助金不交付決定は、表現の自由を保障する憲法二一条に抵触しないとの考えを示した。「税金で賄われている補助金の取り扱いなので、文化庁が事実関係を確認した上で、適切に対応するのは当然だ」と語った。
 菅氏は決定について「文化庁で判断したことだ」として、政権全体の意向ではないと強調。愛知県の大村秀章知事が法的な手続きで争う意向を示していることに関しては「コメントは控えたい」とした。

◆来場者「政治介入では」

 文化庁の補助金不交付決定について、二十六日に名古屋市の会場を訪れた人々からは「政治的介入では」「仕方ない」などさまざまな声が上がった。
 「国の意見と合わない表現を許さない前例を作ってしまう。ショックです」と憤るのは、会社員の菅谷菜穂子さん(42)=東京都港区。企画展の再開に向けた協議が始まるタイミングでの発表に「完全に圧力と思う」と語気を強めた。
 大分県別府市から訪れた公務員女性(28)も「これでは国に忖度(そんたく)した無難な展示しかできなくなる。これからどんどん国際芸術祭をしようという流れの中、開催側を萎縮させる。安易にこんなことをしていいのか」と批判した。
 一方、大学二年生の林晶夫さん(20)=愛知県蒲郡市=は「不交付までする必要はないのではと思うが、国の立場からすれば、仕方ない対応だったのかもしれない」と話した。

◆「至極まっとう」河村市長は評価

 文化庁の補助金不交付について、河村たかし名古屋市長は二十六日、「至極まっとうな判断」と決定を評価した。市のトリエンナーレ負担金については「国と共同歩調を取りたい」と述べ、改めて不支出の可能性に言及した。市は負担金として三年間で約二億円を市や愛知県が参画する実行委員会に支払うことになっているが、本年度分の三千万円は未執行となっている。