アフガン誤算、最後まで 若い米兵犠牲、報復で子ども巻き添え
アフガン誤算、最後まで 若い米兵犠牲、報復で子ども巻き添え
2021年8月31日 (中日新聞))
アフガニスタン駐留米軍撤退は三十一日の完了直前で混迷を極めた。二十六日の首都カブールでの自爆テロで死亡した米兵十三人は、二〇〇一年九月十一日の米中枢同時テロを直接記憶していない若い世代ばかり。「次世代を戦地に行かせない」。撤退にこだわったバイデン米大統領の願いとは裏腹の悲劇。報復攻撃で子どもが犠牲となる大誤算も続き、暴力の連鎖が長期化する懸念は強い。
失態
「アフガンの質問には答えない」。バイデン氏は二十九日、首都ワシントンで大型ハリケーンについて演説した後、記者の質問を遮って、いら立ちをあらわにした。
その直前、バイデン氏は東部デラウェア州の空軍基地で、カブールの空港付近で起きた自爆テロで死亡した米兵の遺体の帰還に立ち会っていた。犠牲となった米兵は最年長でも三十一歳。残り全員が二十代だ。二十年前の同時テロ直前に生まれた最年少の二十歳が五人いた。
「次世代の米国人を派兵することはできない」。撤退で「米史上最長の戦争」を終わらせる決意を示してきたバイデン氏。自らの決断に伴う国外退避作戦中に、あどけなさを残す若い米兵が命を奪われる失態を犯した。
裏切り
戦争の最後に遺族となった人たちの怒りは政権に向く。「バイデンは息子を裏切った。そうとしか言いようがない」。死亡したカリーム・ニクイ海兵隊上等兵(20)の父は米メディアにぶちまけ、空港周辺の警備をイスラム主義組織タリバンに委ねていたと米軍上層部も批判した。
ライリー・マクコラム海兵隊上等兵(20)は初の海外派遣中。妻は第一子を妊娠中で、来月父親になるはずだった。ワシントン・ポスト紙は「(犠牲者の大半が)9・11の時は赤ちゃんで、戦争下にない米国を知らない」と指摘した。
恨み
同時テロ後に始まった米軍のアフガン駐留は最後まで失敗続きだった。四代の大統領の下、二十年間で国に殉じた米兵は二千四百人以上に達する。
巨費を投じて訓練したアフガン政府軍は四月の米軍撤退表明後、タリバンの攻勢に遭い次々と投降。撤退期限前の八月十五日には首都が陥落した。民主政権は一瞬で瓦解(がかい)し、タリバンが実権を再び握った。
この結果、タリバンは米軍や政府軍が残した軍用機や最新鋭兵器を手に入れた。米野党共和党下院議員は「タリバンを防ぐ名目で米国の納税者を犠牲にして準備した武器が、そっくりタリバンに渡った」と憤る。総額八百五十億ドル(約九兆三千億円)に達する計算という。
バイデン政権は自爆テロ後「追い詰め、代償を払わせる」との言葉通り翌日に過激派組織「イスラム国」(IS)系勢力の「ISホラサン州」に無人機攻撃を実施。続いて二十九日にもISホラサン州による自爆テロを阻止しようと車両を無人機で空爆したが、子どもを含む市民も巻き添えに。人権重視を掲げてきたバイデン氏の痛手は大きい。
「撤退は米国を危険にさらすことになる」。共和党重鎮ロムニー上院議員は二十九日のCNNテレビで政権を激しく批判した。置き去りにされ、タリバンの恐怖にさいなまれる元協力者。空爆に巻き込まれる民間人…。米国への恨みは撤退後も積み重なる。バイデン氏の決断は新たな火種を生んでいる。 (ワシントン・共同)
自衛隊あすにも撤収
政府は、タリバンが実権を掌握したアフガニスタンからの退避支援のため派遣した自衛隊を来月一日にも撤収させる方向で調整に入った。隣国パキスタンの拠点に航空自衛隊輸送機を待機させていたが、八月末のアフガン駐留米軍撤退後は首都カブールの空港の安全確保ができず、活動は難しいと判断した。政府関係者が三十日、明らかにした。
近く国家安全保障会議(NSC)を開催し、菅義偉首相らが方針を確認。陸上自衛隊の派遣部隊や空自輸送機のC2とC130の計三機は日本に引き揚げる方向だ。
政府関係者によると、アフガン国内には即時の出国を希望しなかった少数の邦人や、輸送対象の日本大使館や国際協力機構(JICA)のアフガン人職員と家族が最大で計約五百人残っている。
アフガニスタン駐留米軍撤退は三十一日の完了直前で混迷を極めた。二十六日の首都カブールでの自爆テロで死亡した米兵十三人は、二〇〇一年九月十一日の米中枢同時テロを直接記憶していない若い世代ばかり。「次世代を戦地に行かせない」。撤退にこだわったバイデン米大統領の願いとは裏腹の悲劇。報復攻撃で子どもが犠牲となる大誤算も続き、暴力の連鎖が長期化する懸念は強い。
失態
「アフガンの質問には答えない」。バイデン氏は二十九日、首都ワシントンで大型ハリケーンについて演説した後、記者の質問を遮って、いら立ちをあらわにした。
その直前、バイデン氏は東部デラウェア州の空軍基地で、カブールの空港付近で起きた自爆テロで死亡した米兵の遺体の帰還に立ち会っていた。犠牲となった米兵は最年長でも三十一歳。残り全員が二十代だ。二十年前の同時テロ直前に生まれた最年少の二十歳が五人いた。
「次世代の米国人を派兵することはできない」。撤退で「米史上最長の戦争」を終わらせる決意を示してきたバイデン氏。自らの決断に伴う国外退避作戦中に、あどけなさを残す若い米兵が命を奪われる失態を犯した。
裏切り
戦争の最後に遺族となった人たちの怒りは政権に向く。「バイデンは息子を裏切った。そうとしか言いようがない」。死亡したカリーム・ニクイ海兵隊上等兵(20)の父は米メディアにぶちまけ、空港周辺の警備をイスラム主義組織タリバンに委ねていたと米軍上層部も批判した。
ライリー・マクコラム海兵隊上等兵(20)は初の海外派遣中。妻は第一子を妊娠中で、来月父親になるはずだった。ワシントン・ポスト紙は「(犠牲者の大半が)9・11の時は赤ちゃんで、戦争下にない米国を知らない」と指摘した。
恨み
同時テロ後に始まった米軍のアフガン駐留は最後まで失敗続きだった。四代の大統領の下、二十年間で国に殉じた米兵は二千四百人以上に達する。
巨費を投じて訓練したアフガン政府軍は四月の米軍撤退表明後、タリバンの攻勢に遭い次々と投降。撤退期限前の八月十五日には首都が陥落した。民主政権は一瞬で瓦解(がかい)し、タリバンが実権を再び握った。
この結果、タリバンは米軍や政府軍が残した軍用機や最新鋭兵器を手に入れた。米野党共和党下院議員は「タリバンを防ぐ名目で米国の納税者を犠牲にして準備した武器が、そっくりタリバンに渡った」と憤る。総額八百五十億ドル(約九兆三千億円)に達する計算という。
バイデン政権は自爆テロ後「追い詰め、代償を払わせる」との言葉通り翌日に過激派組織「イスラム国」(IS)系勢力の「ISホラサン州」に無人機攻撃を実施。続いて二十九日にもISホラサン州による自爆テロを阻止しようと車両を無人機で空爆したが、子どもを含む市民も巻き添えに。人権重視を掲げてきたバイデン氏の痛手は大きい。
「撤退は米国を危険にさらすことになる」。共和党重鎮ロムニー上院議員は二十九日のCNNテレビで政権を激しく批判した。置き去りにされ、タリバンの恐怖にさいなまれる元協力者。空爆に巻き込まれる民間人…。米国への恨みは撤退後も積み重なる。バイデン氏の決断は新たな火種を生んでいる。 (ワシントン・共同)
自衛隊あすにも撤収
政府は、タリバンが実権を掌握したアフガニスタンからの退避支援のため派遣した自衛隊を来月一日にも撤収させる方向で調整に入った。隣国パキスタンの拠点に航空自衛隊輸送機を待機させていたが、八月末のアフガン駐留米軍撤退後は首都カブールの空港の安全確保ができず、活動は難しいと判断した。政府関係者が三十日、明らかにした。
近く国家安全保障会議(NSC)を開催し、菅義偉首相らが方針を確認。陸上自衛隊の派遣部隊や空自輸送機のC2とC130の計三機は日本に引き揚げる方向だ。
政府関係者によると、アフガン国内には即時の出国を希望しなかった少数の邦人や、輸送対象の日本大使館や国際協力機構(JICA)のアフガン人職員と家族が最大で計約五百人残っている。