一票の不平等訴訟 甘すぎる司法の基準(東京新聞社説2015年3月30日)

2015-03-30 09:23:00 | 桜ヶ丘9条の会
【社説】

一票の不平等訴訟 甘すぎる司法の基準

2015年3月30日東京新聞


 有権者が投じる一票に不平等がある。昨年末の衆院選は格差が最大二・一三倍だった。全国の高裁・支部で相次ぐ判決は、国会の裁量権に甘すぎないか。
 男性が「一票」なのに女性が「〇・五票」なら間違いなく違憲無効になる。仮に東京の有権者が「一票」で、大阪や名古屋の有権者が「〇・五票」ならばどうか。大阪の人も名古屋の人も声を上げて立腹するに違いない。
 住んでいる地域によって、こんな不平等が起きるのはおかしい-、それが訴訟の本質だ。昨年十二月の総選挙は宮城5区が「一票」なのに、東京1区は「〇・四七票」だった。原告が求めるのは、「一人一票」の選挙だ。
◆温存される「一人別枠」
 一票の不平等をめぐる訴訟は一九六二年に始まった。衆院選では七六年と八五年の二回、最高裁が「違憲」判決を出した。「違憲状態」の判決も四回あるが、訴訟は今でも繰り返されている。それは司法がイエローカードを突きつけても、政治の側がいつも小手先の選挙制度改革しか示さず、抜本策を怠っているからだ。
 それでも最高裁大法廷は選挙制度の“病根”のありかを具体的に示したことがある。二〇一一年のことだ。
 「速やかに一人別枠方式を廃止する必要がある」と異例の指摘をしたのだ。
 一人別枠方式とは、あらかじめ四十七都道府県に一議席ずつ配分する地方配慮の選挙制度である。現行の小選挙区比例代表並立制が導入された九四年には、この方式により激変緩和する意味があったが、もはや「立法当時の合理性は失われた」と最高裁は述べた。
 では、この司法判断に政治はどう向き合ったか。衆院選挙区画定審議会設置法から同方式を定めた部分を削除し、五つの小選挙区を削減する「〇増五減」をした。実は条文を削除しただけなので、同方式は実態として残る内容だ。
◆一人二票を許容する?
 この「〇増五減」は昨年の総選挙で初めて実施されたため、今回の訴訟はそれをどう評価するかで、各地の判断が分かれた。
 二十七日時点で、「合憲」としたのが四つの高裁、「違憲状態」としたのが九高裁・支部、「違憲」は福岡高裁の一つだ。全部で十七の判決が言い渡されるが、残りは四月中に出る予定だ。
 従来この訴訟は三段論法で考えてきた。(1)選挙区割りが憲法が求める投票価値の平等に反するか(2)反していても、是正のための合理的期間を経過しているか(3)憲法違反の場合、選挙をやり直す「無効」にすべきか-だ。
 「違憲状態」というのは、(1)の不平等を認めつつも、(2)の合理的期間、つまり国会の裁量権を重くみて、是正すべき期間はまだ経過していないという判断のことだ。
 注目すべきは、まず「違憲状態」とした仙台高裁秋田支部の判決だ。「定数削減の対象外の都道府県は一人別枠方式の旧区割りの定数をそのまま維持している」とし、“病根”がまだ残っていることを指摘した。
 そのうえで、二倍超の選挙区が十三あることについて、「二倍以上の格差は一人に二票を許容するに等しく、憲法の要求する一人一票の原則を実質的に破壊している」と表現した。
 「違憲」判決だった福岡高裁も「一人別枠方式の構造的な問題が最終的に解決されていない以上、それ自体、憲法の投票価値の平等の要求に反する」と述べた。
 かつ、合理的期間についても、一一年の最高裁大法廷の言い渡し日を起点とし、「約三年八カ月が経過している」とし違憲に導いた。明快な考え方と評価する。
 「合憲」とする東京高裁などの判断は一三年の最高裁大法廷判決を引用する。まず選挙制度のテーマは合意形成に困難が伴うことを前提としたうえで、「漸次的な見直しを重ねることも、国会の裁量にかかる現実的な選択として許容される」と述べた部分だ。
 ここに寄り掛かり、「〇増五減」の「区割りは大法廷判決に違反していない」と結論を導き出しているわけだ。
◆必要なのは抜本策だ
 小手先の改革であっても続けていれば、司法はその小さな努力を認めようという考え方とも読める。本当に政治に対し、それほど寛大であっていいのだろうか。国会の裁量権に甘すぎないか。
 衆院では有識者会議が選挙制度改革を検討中だ。どんな改革案であったとしても、限りなく一人一票の原則に忠実であるべきだ。衆院はその権能や解散制度などから考えても、的確に国民の意思が反映されることが求められる。必要なのは抜本策である。半世紀以上も訴訟が繰り返される「愚」から早く脱するべきである。


アベ政権の激走ー「いま」と「わたし」の大冒険(朝日新聞社説2015年3月29日)

2015-03-28 08:27:56 | 桜ヶ丘9条の会

安倍政権の激走―「いま」と「わたし」の大冒険
2015年3月29日(日)朝日新聞社説

 走る、曲がる、止まる。

 これは自動車の基本性能だが、政治におきかえてみても、この三つのバランスは重要だ。

 「この国会に求められていることは、単なる批判の応酬ではありません。行動です」

 先の施政方針演説で、野党席の方を指しながらこう力を込めた安倍首相。確かに、政権の激走ぶりには目を見張るものがあり、ついエンジンの馬力やハンドルの傾きにばかり気をとられてしまうが、最も注視すべきは、ブレーキだろう。

■ここでないどこかへ

 権力を縛る憲法。歴史の教訓。権力を持つものの自省と自制。メディアや野党による権力の批判的検証――。敗戦から70年の間、これらは日本政治のブレーキとして機能してきた。

 しかし安倍政権やそれを支える自民党の一部は、ブレーキがあるからこの国の走りが悪くなっていると思い込んでいるようだ。「行動を起こせば批判にさらされる。過去も『日本が戦争に巻き込まれる』といった、ただ不安をあおろうとする無責任な言説が繰り返されてきた。批判が荒唐無稽であったことは、この70年の歴史が証明している」。防衛大学校の卒業式で、首相はこう訓示した。国会では自衛隊を「我が軍」と呼んだ。

 「戦後レジームからの脱却」「日本を取り戻す」とは、ブレーキなんか邪魔だ、エンジン全開でぶっ飛ばすぜという冒険主義のことなのだろうか。

 「いま」がすべて。どこに向かっているのか、なぜそんなに急ぐのか、危ないではないかと問うても、いまこの走りを見てくれ、こんなにアクセルを踏み込める政権はかつてなかっただろうと答えが返ってくる。とにかく前へ、ここではないどこかへと、いま必死に走っている最中なんだ、邪魔をするのかと、あらゆる批判をはねのける。

 奇妙な論法が横行している。

■権力者のクラクション

 「八紘一宇(はっこういちう)」。もともとは世界を一つの家とする、という意味だが、太平洋戦争中は日本の侵略を正当化する標語として使われた。自民党の三原じゅん子女性局長は先日の国会で、そのような歴史的文脈を捨象し「日本が建国以来、大切にしてきた価値観」と紹介した。

 「わたし」を中心にものごとを都合よく把握し、他者の存在をまったく考慮に入れない。狭隘(きょうあい)かつ粗雑な世界観が、あちこちから漏れ出している。

 首相は昨年、民放ニュース番組に出演し、テレビ局が「街の声」を「選んでいる」「おかしい」などと発言した。先日の国会で、報道への介入と言われても仕方ないと批判されると「言論の自由だ」と突っぱねた。

 権力が抑圧してはならない個人の権利である「言論の自由」を権力者が振りかざすという倒錯。首相はさらに「私に議論を挑むと論破されるのを恐れたのかもしれない」「それくらいで萎縮してしまう人たちなのか。極めて情けない」とも述べた。

 ひょっとして首相は、最高権力者であるという自覚を根っこのところで欠いているのではないか。巨大な車にクラクションを鳴らされたら、周囲が一瞬ひるんでしまうのは仕方ないだろう。だからこそ権力は国民をひるませないよう、抑制的に行使されねばならない。首相たるもの「いま」「わたし」の衝動に流されるべきではない。

 情けないのは抑制や自制という権力の作法を身につけず、けたたましいクラクションを鳴らして走り回る首相の方である。

■不安社会とブレーキ

 そうは言っても、安倍政権が激走を続けられるのは、社会の空気が、なんとなくそれを支えているからだろう。

 長引く不況。中国の台頭。格差社会の深刻化。さらに東日本大震災、過激派組織「イスラム国」(IS)による人質事件などを経て、焦燥感や危機意識、何が不安なのかわからない不安がじわじわと根を張ってきた。

 国ぐるみ一丸となって立ち向かわなければやられてしまう。国家が最高のパフォーマンスを発揮できるよう、政府の足を引っ張ってはいけない――。そんな気分が広がり、熟議よりもトップダウン、個人の権利や自由よりも国家や集団の都合が優先される社会を、知らずしらず招き寄せてはいないだろうか。

 無理が通れば道理が引っ込む。「反日」「売国奴」。一丸になじまぬものを排撃する一方で、首相に対する批判はメディアのヘイトスピーチだという極めて稚拙な言説が飛び出す。

 昨今「メディアの萎縮」と呼ばれる事態も、強権的な安倍政権にたじろいでいるという単純なものではなく、道理が引っ込み、液状化した社会に足を取られているというのが、情けなくはあるが、率直な実感だ。

 ブレーキのない車のクラクションが鳴り響く社会。メディアが耳をふさいでやり過ごしてはならない。そしていま、この社会に生きる一人ひとりにも、できることはあるはずだ。
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「リニアと電磁波を考える」リニアを考える可児の会学習会(2015年4月19日)

2015-03-26 18:04:30 | 桜ヶ丘9条の会
「リニアと電磁波を考える」

JRが計画しているリニア中央新幹線、超伝導磁石で浮上し時速500kmの猛スピードで可児市では地上走行の大萱、桜ヶ丘ハイツ(欅ヶ丘)を通って、大森新田付近を抜けて多治見に至るルートです。特に大萱高架橋、大森新田付近に救助と通気の立坑が作られます。この時出される騒音と電磁波が人体に影響を及ぼし、小児白血病が心配されると学者さん達が訴えられています。
 リニアを考える可児の会では、電磁波に詳しい大塚先生をお呼びし、勉強会を開きます。是非お越し下さい。

  日時・・・・・・4月19日(日) 午後2時~4時

  場所・・・・・・桜ヶ丘公民館1階視聴覚室

  講師   大塚芳裕さん

  「プロフィール」
  1948年     横浜生まれ
  1970年     千葉大学工学部合成化学科卒  ソニー入社
  2005年     京都議定書クリーン開発メカニズム審査機関勤務 プロジェク
            ト審査委員
  2012年     春日井市環境審議会委員、春日井リニア新幹線を考える会

  内 容

   ・  リニアの問題について
   ・  リニアから出る電磁波について
   ・  電磁波の健康への影響(小児白血病等)について

   
問い合わせ先  リニアを考える可児の会 代表桑山賢二 電話0574-63-3967
      

安保法制与党合意 「専守」変質を憂う(2015年3月21日東京新聞社説)

2015-03-21 18:14:50 | 桜ヶ丘9条の会
安保法制与党合意 「専守」変質を憂う

2015年3月21日東京新聞社説


 安全保障法制整備に関する与党合意は、自衛隊による海外活動の大幅拡大に道を開く。戦後日本が貫いてきた専守防衛政策を変質させる危うい一歩だ。
 国民の命と財産、平穏な暮らしを守り抜くことは、国民の負託を受けた政府の使命であり、万一、それらを脅かすものがあれば、断固として排除するのは当然だ。
 しかし、攻撃を受けなければ反撃せず、ましてや他国同士の戦争に参戦して海外で武力の行使はしない。そうした「専守防衛」は、日本国民だけで三百十万人の犠牲を出した先の大戦の反省に基づく国際的な宣言であり、戦後日本の生き方そのものでもある。
◆揺らぐ平和国家理念
 安倍晋三首相は国会答弁で「日本国憲法の基本理念である平和主義は今後とも守り抜く。平和国家としての歩みは、より確固たるものにしなければならない。わが国防衛の基本方針である専守防衛には何ら変更はない」と強調する。
 ただ、一連の与党協議で示された政府方針を見ると、専守防衛に何ら変更がないとは、とても言いきれないと危惧せざるを得ない。
 まずは集団的自衛権の行使だ。
 政府は昨年七月に閣議決定した「新三要件」に基づき、日本と密接な関係にある他国が攻撃され、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある「新事態」(仮称)では首相が自衛隊に防衛出動を命令できるよう改める方針を示した。
 しかし、どんな事態が該当するのかは、必ずしも明確でない。
 首相は「わが国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況」と説明し、邦人輸送中の米軍船舶の防護や中東・ホルムズ海峡での機雷除去などを例示するが、現実性や切迫性がどこまであるのか。
◆政府の裁量が大きく
 日本への攻撃が明らかな場合に行使する個別的自衛権と違い、集団的自衛権行使の要件を満たすかどうかは結局、政府の裁量に委ねられる部分が大きい。
 個別的自衛権と同様、集団的自衛権の行使も国会の事前承認を必要とするが、「原則」とのただし書きが付いており、国会での承認抜きで行使できる余地を残す。
 戦後貫いてきた専守防衛の根本的な転換となる際、その是非を国会で議論しない可能性を残してよいのか。それほど低いハードルで政府が一貫して否定してきた集団的自衛権を行使していいのか。
 このような重大な政策変更は本来、憲法改正を発議し、国民の判断に委ねるべきであり、一内閣の憲法解釈変更で変えられるようなものではない。再考を促したい。
 専守防衛から逸脱する可能性は集団的自衛権に限らない。
 与党協議では、国際社会の平和と安全のために活動する他国軍を支援するための一般法(恒久法)を検討することでも合意した。
 事態が起こるたびに対応してきた従来の「特別措置法方式」とは異なり、政府は自らの裁量で自衛隊を派遣できることになる。
 公明党の主張に応じ、他国軍支援に当たり、憲法違反となる「武力の行使との一体化」を防ぐ枠組みを設定するよう求めてはいる。
 しかし、安倍内閣はすでに海外での自衛隊活動を「後方地域」や「非戦闘地域」に限る制限を撤廃し、「現に戦闘行為を行っている現場」でなければ他国軍を支援できるよう活動地域を拡大した。
 戦闘の現場は刻々と変わるのが戦場の現実だ。隣接地域で後方支援すれば、武力行使との一体化は避けられまい。戦闘に巻き込まれて応戦し、本格的な交戦に至る危険性も否定できない。
 そうした状況が生じても、専守防衛の理念に揺るぎはない、と胸を張って言い切れるだろうか。
 朝鮮半島有事などを想定した周辺事態法から地理的な制約を撤廃し、支援対象も米軍に限定しないという。武力の行使に当たらなければ、自衛隊は世界中で、どんな活動もできるというのだろうか。
 国際社会の平和と安定のために積極貢献すべきだが、軍事でなく民生支援に力点を置くべきだ。それを地道に続けてこそ、平和国家の土台を固めることができる。
◆際限なき拡大に不安
 内閣府の世論調査では、自衛隊の国際平和協力活動について「現状の取り組みを維持すべきだ」と答えた人は三年前から4・1ポイント増の65・4%、「これまで以上に積極的に取り組むべきだ」との回答は2・2ポイント減の25・9%だった。自衛隊活動が際限なく広がることへの不安が表れている。
 安倍政権は二回の衆院選で続けて与党三分の二以上の多数を得たが、政府の憲法解釈を勝手に変えることができるような全権をも与えられたわけではあるまい。首相は憲法を重んじ、国民の心情と真摯(しんし)に向き合うべきである。


7・1閣議決定の撤回と法制化の中止を求める緊急意見書(自由法曹団)

2015-03-20 08:44:40 | 桜ヶ丘9条の会
緊急意見書の目次部分と「はじめに」、「おわりに」の部分を紹介する。

はじめに ――― 政府・与党協議と戦争法制 【安全保障戦略全面再編のなかの戦争法制】

 2014年7月1日の閣議決定「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安 全保障法制の整備について」(以下、「閣議決定」)を法制化する戦争法制(安保法制) についての、政府・与党協議が進んでいる。
 週1回のペースで行われている協議は、グレーゾーン事態(2月13日)、後方支援・P KOなど(2月20日)、在外邦人の救出など(2月27日)、集団的自衛権行使・存立事 態(3月6日)と急ピッチで展開し、3月20日には取りまとめが予定されている。
 そのとおりいけば、5月の連休明けには戦争法案(安保一括法案)が国会に提出される ことになり、第三次安倍政権は第189通常国会(会期末 6月22日)の会期を大幅に 延長して、強行成立をはかろうとするだろう。
 安全保障会議の設置、秘密保護法の強行、国家安全保障戦略、新「防衛計画の大綱」・中 期防衛力整備計画(以上いずれも2013年12月)、武器輸出三原則の廃止・防衛装備移 転三原則への移行(14年4月)、ODA大綱改定(15年2月)と安全保障(外交・軍事) 戦略の全面再編が進められ、「繁栄の弧」への「地球を俯瞰した外交」も展開されている。
 米国の地位の相対的低下や中国の台頭などの「安全保障環境の変化」を理由に、多方面 にわたって展開されている安全保障戦略の全面再編は、いよいよ恒久平和を宣言した日本 国憲法と深くかかわる軍事法制再編の段階に入ることになる。
 【政府・与党協議の構造と特徴】
 行われているのは自民・公明両党の「与党協議」ではなく「政府・与党協議」であり、 イニシアチブを握っているのは国家安全保障局や外務省・防衛省などの政府側である。政 府によって展開されてきた安全保障戦略の再編が、戦争法制の整備に集約されつつある。
 現行の「相互協力計画についての検討」(ガイドライン)では、「日米包括メカニズム」 で「相互協力計画についての検討」が行われることになっている。「政府・与党協議」と並 行して、14年10月8日の「中間まとめ」で「先送り」とされたガイドライン改定作業 が同時並行で行われており、戦争法制の準備が終わることはガイドライン改定が取りまと められることを意味している。米日両国政府間で秘密裏に行われている改定のための協議 が、「政府・与党協議」に強烈なインパクトを与えているに違いない。
 内容の面では、すべての方面で閣議決定すら超越した軍事突出が顕著である。
「限定的」とされたはずの集団的自衛権の行使は「経済的な損失が発生する危険」にま で拡大され、周辺事態法は「周辺」や「武力行使のおそれ」を取り払った新たな海外派兵 法制として再生し、治安維持活動にまで海外での自衛隊の活動が拡大し、防護の対象は米 軍から他の国の軍隊にまで拡大されようとしている。「どうすれば万全の構えがとれるか」を基準とする、軍事合理主義ないし抑止力論の本質を示すものと言わねばならない。
 こうしたもとで、閣議決定に向けた与党協議に比べても、公明党の抵抗ははるかに微弱 なものにとどまっている。公明党は、(1)国際法上の正当性、(2)国民の理解と民主的 な統制、(3)自衛隊員の安全確保の「3原則」を提起しているとされているが(朝日新聞など 3月7日)、これらが「歯止め」になるとはとうてい考えられない。

【5つのチャンネルでの軍事突出】
このまま推移すれば、「政府・与党協議」によって生み出される戦争法制は、
 1 集団的自衛権行使容認による有事法制の拡張と再起動(→I)
 2 周辺事態法の再生と「重要影響事態法」への変身(→II-2)
 3 海外派兵恒久化法(一般法)の創出(→II-3)
 4 PKO法とPKOの変質(→II-4)
 5 グレーゾーン事態への自衛隊の投入(→III) という、自衛隊の5つの「活動チャンネル」で、飛躍的な軍事突出を見せることになる。
 自衛隊の「活動チャンネル」にはもうひとつ海賊対処法があり、この法制だけは改正が 予定されていない。領海外での任務遂行のための船体射撃が容認されているなど、はじめ から攻撃的な構造をもっているためであり、海賊対処法にもとづくジブチ共和国の統合根 拠地の機能拡張がはかられるなど、軍事突出は変わらない。
これらが強行されたとき、「この国のかたち」は根底から変容することになるだろう。
 【自衛隊海外派兵・有事法制と自由法曹団】
全国2100名の弁護士で構成する自由法曹団は、自衛隊海外派兵や有事法制に反対し て平和的解決を求める活動を展開し、法律家の立場から法案に検討・批判を加えた意見書・ 報告書を発表し続けてきた。この間の安全保障戦略の全面再編についても、秘密保護法案 や安保法制懇報告書を批判する意見書の発表や、秘密保護法や閣議決定を解明・批判する 出版などを行ってきた。すべての意見書・報告書は、自由法曹団のホームページに掲載し ているので、ご参照いただきたい。
 この小冊子は、こうした自由法曹団の活動を踏まえて、生み出されようとしている戦争 法制の全体像と問題点を明らかにするために取りまとめた緊急意見書である。
大筋において構造と問題点は明らかにできていると考えているが、議事録等が公表され ていない政府・与党協議についての情報は十分とは言えず、3月6日の協議までを前提に しているので結論が変わることもあり得る。こうした点は、協議の推移と結果を見ての改 訂などで対応したい。
軍事法制の全面的な再編をもたらし、「この国のかたち」を大きく変容させる戦争法制の 批判的検討に、本意見書が役立てば幸甚である。


緊急意見書
  7・1閣議決定の撤回と 法制化の中止を求める
はじめに ――― 政府・与党協議と戦争法制
  I 集団的自衛権行使容認による有事法制の拡張と再起動

  (I-1)有事法制とその体系
  (I-2)閣議決定と中間報告
  (I-3)戦争法制による有事法制の拡張

 II 3つの自衛隊海外派兵法制

  (II-1)海外派兵法制と閣議決定・中間報告
  (II-2)周辺事態法の再生と「重要影響事態法」への変身
  (II-3)海外派兵恒久化法(一般法)の創出
  (II-4)PKO法とPKOの変質

 III グレーゾーン事態への自衛隊の投入

  (III-1)現行法制と閣議決定・中間報告
  (III-2)治安・警察の領域への自衛隊の投入


 おわりに ――― 戦争法制がもたらすもの

 これまで見たとおり、生み出されようとしている戦争法制は、自衛隊の活動の「5つの チャンネル」のいずれでも、憲法的制約を離れた自衛隊の活動に道を開き、自衛隊の早期 投入や武器の使用(軍事力行使)を可能にする。
「ポンチ絵」風に言うなら、「これまでトゲを寝かせて丸くなっていたヤマアラシが、す べてのトゲを目いっぱいに振りたてた姿」とでも言えようか。
そのトゲのひとつに刺激が走れば、ただちに発砲となって戦闘行動が開始される。どの トゲで開始されても、「切れ目のない対応」によって容易に武力行使=戦争に拡大する。そ して、その戦争は、常に米国あるいは米国の同盟国との共同作戦となり、なし崩し的な集 団的自衛権の行使に発展する・・。
 これが戦争法制のもとのこの国の安全保障の姿である。
その結果、この国は「武力による平和の創設・強制」の道をひた走ることになり、「軍事 プレゼンス」は確かに向上する。
だが、そのことは、この国が、「民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的 価値」を掲げる陣営の「軍事大国」となり、その「普遍的価値」を共有できない国や社会 との関係では、明確な「敵国」「敵軍」として登場することを意味している。
 その道はなにをもたらすか。その道は平和を実現することができるか。 この問いかけは、アフガン戦争・イラク戦争のときの問いかけと、本質的に変わらない。 あのとき、小泉純一郎政権は、「テロとの戦争」を叫ぶアメリカ・ブッシュ政権に追随して戦争の道をひた走った。国民の反対を押し切って「テロ」特措法やイラク特措法、有事 法制が強行されたのは、そのさなかのことであった。
 アフガン戦争勃発から3か月後の2002年1月、自由法曹団は「アフガン問題調査団」 を現地に派遣して戦争の実態とNGOや国際組織による解決努力を持ち帰り、平和的解決 を呼びかけた。その呼びかけは、平和の道をめざそうとした世界とこの国の多くの人びと の声とともにあった。
あれから14年、軍事力で平和と秩序を強要しようとした「テロとの戦争」の結末は、 だれの目にも明らかになり、世界は軍事力によらない平和の道を進もうとしている。その 道は、日本国憲法が宣言した恒久平和主義を発展させるものでもある。
 そのいま、「積極的平和主義」の名のもとに、憲法的制約を離れた自衛隊の活動を許容し、 「軍事大国」になる道を進むことなど、断じてあってはならない。
 自由法曹団と団員弁護士は、日本国憲法を蹂躙する閣議決定の廃止と戦争法制(安保法 制)整備の中止を、強く要求する。

           2015年 3月10日

                     自由法曹団